法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』謎のピラミッド!?エジプト大冒険

8月30日、スネ夫にエジプトの話を聞いた帰り道のこと。のび太ドラえもんの秘密道具「あらかじめ日記」に強制され、買い物や草むしりをさせられる。
しかし状況を強制する「あらかじめ日記」によって夏休みの宿題を終わらせられることに気づき、のび太ドラえもんをさそって堂々とエジプトに乗りこんだ。
幸運にも埋もれた王墓を発見し、のび太たちが時間移動して入りこんだところ、そこには瀕死の少年王が倒れていて……


今年の誕生日スペシャルは、ドラえもんの誕生日とは関係なく、夏休みの終盤という時期から物語を展開。既存の秘密道具*1タイムパラドックスを活用して、古代エジプトにおける王権簒奪劇を描きだした。
導入の王墓探検で使った秘密道具が本筋で活用されたり、古代エジプトの文化が逆転劇に活用されたり、異なる社会での冒険活劇として定石をおさえている。ジャイアンスネ夫しずちゃんも王宮への潜入で囮になったりと活躍して、無駄な要素が少ない。文句をつけるなら、キャラクターの心情が短時間で動きすぎて、ダイジェストっぽさを感じたところくらい。
もっとエジプト文明を楽しむディテールを足したり、少年王に味方するキャラクターを他に出したり、一般市民の描写を増やせば、そのままアニメオリジナル映画にできそうなくらいの完成度はある。敵の神話的な顛末も、幼児向けのTVアニメらしからぬ踏みこんだ描写だ。
物語の主軸は、秘密道具で最も万能な「あらかじめ日記」を少年王の救出時に落としてしまい、それを拾った敵が権力をふるって歴史を変えるというもの。ただ、人心も天候も自由に変えられる秘密道具が強力すぎて、のび太が王墓の発見に活用しなかったり、王権の象徴たる黄金のスカラベを奪わなかったり*2、敵味方の行動に違和感がややあった。ここは、それぞれ自力でなしとげることに意味があると考えていたと解釈するべきか。
ちなみに「あらかじめ日記」の原作エピソードでは、書きこんだ文字そのものを消すことができず、効力を消すには焼却するしかなかった。今回も同じように火で燃えて効果が消える。予定を消せないという要素は、次回にアニメ化される「スケジュールどけい」にも通じるが、敵が最後まで日記を確保しつづける今回の物語では出てこなかった。


スタッフは伊藤公志脚本に、SDの大杉宜弘コンテ。演出家が3人いて、作画監督は7人と過去SPに比べても多め。「原画頭」として、『クレヨンしんちゃん』から注目されている若手の神戸佑太*3がクレジット。
しかしスケジュールが厳しかったのか、全体は整っていて悪くないものの、過去の誕生日SPに比べると突出した作画が少ない。再リニューアル後のSP的な「天井うらの宇宙戦争*4が作画において圧倒的だったこともあり、正直にいえば期待外れですらある。
3DCGで立体的に描写した王墓や、古代エジプトの活気あふれる風景、くりかえし登場する兵士たち、大ピラミッド内の決戦など、見ていて楽しい映像は散りばめられていたのだが。作画で目を引いたところというと、ファラオの巨大感あるレイアウトと重量感あるアニメート、大ピラミッドが砂に戻った砂煙の立体的なエフェクト作画といったところか。

*1:遺跡探索というテーマが同じなので、最新映画『南極カチコチ大冒険』と同じ秘密道具が使われたりもする。

*2:もはやスカラベよりも日記が大切だという意味の発言が終盤に出てくるので、その主張を前倒しすれば違和感がなかったかもしれない。

*3:アニメーター神戸佑太さんだゾ - Togetter

*4:『ドラえもん』天井うらの宇宙戦争 - 法華狼の日記