法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』ドラドラポンポコ大捜査/動物型にげだし錠/食べて歌ってバイオ花見/「映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃」

アニメオリジナルをふくむ3本建てと、ノーカット映画を合わせたスペシャル。『ドラえもん』は全体として作画は平均的だが、きちんと物語はまとまっている。うち2エピソードは2009年*1以来の釘宮洋コンテ。


「ドラドラポンポコ大捜査」は、骨川家にやってきたタヌキをドラえもんが助けて、兄貴としたわれながらタヌキの妹さがしを手伝ってやる。
都市に定住しつつあるタヌキという社会問題をテーマに、きちんと取材されて自然との距離感を保ったドラマが展開される。同時に、ドラえもんがタヌキと同族あつかいされるが怒るに怒れないコメディとして、肩ひじはらずに楽しめる。タヌキがお礼としてネズミをくわえてくる天丼ギャグもいい。アニメオリジナルながら安心して見ることができた。
「動物型にげだし錠」は、さまざまな動物の敵から逃げる体質を身につけられる秘密道具を、スネ夫がうばって活用しようとする。
このエピソードが選ばれたのは、ひょっとして『けものフレンズ』人気を意識したものか。少し動物の種類が増えていることをのぞけば、内容は原作に忠実。スネ夫がさまざまな姿でジャイアンを煙に巻く構図が珍しくも楽しい。
「食べて歌ってバイオ花見」は、植物のクローンを生みだす秘密道具「バイオ植木カン」を使って、家にいるまま楽しもうとする。
花見に行けなかったことのリベンジにしても季節外れの原作選定だが、見ると意外と悪くない。クローンをつくる植物の種類を増やすことで、異なる季節を同時に楽しむコンセプトが強化されているためだ。植物を増やしたことは家全体がクローン作物でおおわれる情景をも生みだし、原作を逸脱せず楽しさを増すアレンジとしてよくできている。


映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃は、劇団ひとり高橋渉監督と共同で脚本として参加。多忙であっても定期的に会議へ参加をつづけ、スタッフとキャッチボールしながら完成させたという。
『映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』髙橋渉監督インタビュー | V-STORAGE (ビー・ストレージ) 【公式】

初めてお会いしたのが去年の1月頃で、どんな感じの作品が良いかを話し合いました。2週〜3週に1回、2時間〜3時間のペースでお会いするような形で。お互いのやりたいことを探っていって。

シナリオを思案していただいている間、僕たちはビジュアルイメージを制作して、こういうデザインはどうですかと確認したり、そんなやりとりを何度も繰り返して作り上げていきました。

幼稚園に、新しい女児がやってきた。かわいらしくクールな貫庭玉サキへ多くの男児がアプローチ。しかしバカを嫌うサキは周囲を拒絶する。
やがて、周辺の街ではおさまったはずの集団悪夢事件にしんのすけたちが襲われて、その中心にサキがいることが明らかになっていく……
そんな物語で、ひさしぶりにカスカベ防衛隊の5人組が活躍する。夢の力は幼いほど大きいという設定で、ひまわりが話としても絵としても最大最強という逆転が楽しい。
悪夢世界は三原三千夫によるコンセプトも悪くない。メタモルフォーゼしながら襲いかかる悪夢の中核や、「イトカワ」による大爆発などでは作画も楽しめた。


しかし全体としては作画の弱い場面が多く、園児目線のミドルショットが多いこともあって、映像の印象はTVアニメと大差ない*2。いつもの春日部市の風景でほとんどの日常がすまされていることも、映画らしさを感じさせない一因。新しい秘密基地のように背景美術を緻密にしたりして、舞台は同じでも映画らしい特別な雰囲気を画面に作ってほしかった。
また、いくら悪夢がテーマだといっても、ちょっと描写のしつこい場面が目につく。ビジュアルもストーリーも、良い部分と悪い部分の差がはげしすぎて、視聴意欲がそがれる場面がいくつかあった。
しかし突出した部分に目を向けると、全体のバランスが良かった1年前の佳作*3を最高点においては超えたと感じる。それでいて敵にも深い事情を設定することで、キャラクタードラマのバランスは、同じ高橋監督で脚本家が異なる2年前*4より良くなっている。


そして敵となる貫庭玉一家は、主人公一家の別の可能性。子供を守るためなら何でもするという、過去の映画で野原夫妻をふるいたたせてきた動機が、今回は貫庭玉夢彦の動機として正面からぶつけられる。過去の映画でいくつかあった敵にも正義があるというドラマをも超えて、主人公一家は自身の正義に向きあい、協力して出口へたどりつく必要にせまられる。
バカなことを嫌いクールをつらぬこうとするサキの性格も、しんのすけを思わせる好奇心が反転したものだった。バカなことを嫌う真意を知って冒頭から見返すと、他者へのクールな態度が痛々しいものとわかる。
サキがカスカベ防衛隊の新メンバーになっていたことも重要だ。真実を知った後の衝突がはげしくなりつつ、ともに悪夢へ立ちむかう仲間意識を支える。特にネネがポイントとなって、サキと対等な存在として関係を結んでいく。さすがに活躍で主人公を超えることはないが、これが少女漫画であれば、過去という悪夢にとらわれたサキ姫を救うネネ王子という構図になったろう。見ていて漫画版『少女革命ウテナ』を思い出したほどだ。


ひとつだけ物語に注文をつけるなら、親が必ず子を愛するものだという思想は、あくまで理想にすぎないという留意がどこかほしかった。
もちろん、その理想を子供たちに疑わせないために、迷いを見せずに訴えることは劇中の行動として正しい。しかし、それでも虐待を受けている子供が親を信じてしまう問題は現実にあるし、観客が注意しておくべきことだ。
だからたとえばクライマックスにおいて、夢を見ていない貫庭玉夢彦が自身をふりかえりながら「親が必ず子に愛を与えられるわけではない」とつぶやき、同じく夢を見ずに子供と妻を見守る野原ひろしが「ああ、だからがんばらないとな」と応じたりする描写があれば、家族の物語として完璧だった。