法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『BILLY BAT』

見える人々をそそのかす、カートゥーン調キャラクターの幻「ビリーバット」。同じ姿の2体がいて、どちらかが人類を誤った方向へ導こうとしている……


ひとつの漫画キャラクターをめぐる架空の現代史を描いた浦沢直樹作品。2008年から2016年にかけて断続的に連載され、全20巻で完結した。
主として日米をまたにかけ、ディズニーを思わせる巨大漫画ブランドの興亡と、陰謀論的な現代史をよりあわせながら、弱き人々の営みを支えようとする。
いつものように連作短編としては完成度が高く、差別にあらがおうとするメッセージも力強く、謎解きへの誘因力も強烈だった。


そして、広げた風呂敷におさまる真実の尻すぼみっぷりもいつもどおり。
ただし今作は、ビリーバットの正体をあっけなく台詞で説明した後も物語がつづく。クライマックスに集中する期待を肩透かしして、すべての設定が明かされた状態でドラマがつづいていく。
エピローグにはクライマックス以前ほどの力強さはないし、最後のシチュエーションはトロッコ問題の変奏にしても、短編や中編の名手としての浦沢節が堪能できた。
やはり浦沢作品は謎解きを重視した連続ストーリーより、連作短編をつきつめるべきだと感じられた。