法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』未解決事件 File.06 赤報隊事件 1夜目 実録ドラマ

近年の未解決事件を取材と再現映像で描こうとするドキュメンタリードラマ。
NHKスペシャル 未解決事件
今回は朝日新聞社阪神支局襲撃に始まる、劇場型の殺害脅迫事件を追う。


実録ドラマパートは、阪神支局の内部で、記事にしないまま事件を追いつづけた特命取材班が主軸。中心となった樋田毅記者を、スピンオフ番組のMCもつとめた草磲剛が演じる。SMAP解散後にジャニーズ事務所を離れた立場と、仲間と孤独に事件を追いつづけた立場を重ねての配役なのかもしれない。
過去の未解決事件に比べて時代が近く、舞台の新奇性も弱いのだが、ていねいに時系列を追いつつ人情的な逸話を引いて、映像作品として悪くない。黒いソファに血だまりができている描写や、最も疑わしい人物を雑踏で取り逃がす場面は、サスペンスドラマとして純粋に印象的。
朝日新聞にあびせられる数々の批判を受けとめつつ言論には言論で応じるべきと主張する樋田記者。右翼の血を引いているというハッタリで取材をすすめる記者。事件の痕跡を見たくないからとソファを廃棄しようとした上司。個性的な関係者の群像劇としても楽しませる。
取材源を秘匿するため関連資料を警察に見せられず、警察側が資料の読みあげを提案して新聞側が応じるやりとりも、緊張感があって良かった。警察とは別個に特命取材班が事件を追う必要性を、物語として説明する意味もある。
ただ、現実の事件にもとづく再現ということを考慮しても、襲撃や脅迫された側ばかり実名が流れて、関係する右翼の多くは匿名だったのはドラマとして残念だった。仮名をつかって関係者に人格を感じさせたほうが、物語としては良かったと思える。


もちろん完全な未解決事件なので、ドラマにカタルシスはない。最も疑わしい人物も取材からすりぬけて、虚無的な顛末をむかえてしまった。
そして番組は、脅迫文にある「反日」という単語が蔓延している現代を映し、事件につながる主張が社会に根づいてしまったことを示した。
1987年の事件から2003年の時効まで描いてきたドラマの最後に、赤報隊を賞揚するデモが映される。それは再現ではなく、今もつづいている現実の風景だ。