朝日新聞社への銃撃に端を発する、一連の劇場型犯罪。当時に疑われた右翼関係者や、捜査関係者の現在を映しだす。
NHKスペシャル 未解決事件
映像としては、被害者遺族が明るくふるまいながら墓参りをつづけて、しかし時効を直前にして哀しみをあらわにする一瞬などが印象的だった。
番組構成で興味深いのは、まるで競うかのように右翼関係者が赤報隊の正体を混迷化させようとしていること。
最初に登場する顔も声も隠した右翼関係者は、赤報隊が右翼であれば正体を隠すことはないと断言。番組も傍証として浅沼稲次郎暗殺事件や、三島由紀夫扇動事件で、犯人が顔を隠していなかったことを指摘する。
しかし、当時に赤報隊への同調を示した新右翼の鈴木邦男は、いつものように顔出しでインタビューを受けながら、真犯人が接触してきたことをにおわせつつ、その実態については何も語らない。中山嶺雄という現在も積極的に右翼活動している人物*1も、事件を殺人ではなく処刑だと正当化しつつ、犯人であれば表に出ることはないと主張する。
さらに事件以前に赤報隊の名義で活動し、十年以上も警察にマークされていた右翼も登場。顔と声を隠して、赤報隊事件への共感を語り、自分が囮となって真犯人が逃げる時間をつくったとうそぶく。
正体を隠した人物は右翼が逃げも隠れもしないかのように美化して、正体を明かしている人物が右翼が社会に隠れて活動することを正当化する。まるで共謀しているかのように、しかしおそらくは無意識に、責任を雲散霧消させていく右翼。
警察にしても、宗教団体への捜査は不思議なことに途中で打ち切りとなった。竹下登への脅迫状も、政治家の人気に影響することを忖度してか、まったく捜査されなかった。あたかも右翼と国家権力が協力して、言論の自由への抑圧を維持しているかのよう。
番組は最後に、今も赤報隊事件を支持する右翼のデモを映しだす。朝日新聞を「反日」として糾弾する人々の行進は、警察にかこまれつつ、制止されることなくおこなわれる。警察という殻によって、「反日」への攻撃が維持されている……