法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『電人ザボーガー』

サイボーグ組織Σが国会議員を次々に襲撃する事件が発生。秘密刑事の大門豊と、パートナーロボットの電人ザボーガーが立ちあがる。
やがてΣ内部で虐げられている女性幹部ミスボーグと、組織になじめない大門豊が戦いながら、ふたりの距離が縮まっていくが……


1970年代のピープロ特撮番組を、井口昇監督が2011年に映画としてリメイク。2部構成で、若きヒーローの活躍と挫折、中年となったヒーローの再起を描く。

電人ザボーガー

電人ザボーガー

原作の特撮番組については、懐かし番組の特集や特撮ヒーロームックでの断片的な情報しか知らず、まずはひとつの新作ヒーロー映画として観賞した。
最初に気になるのが序盤の演出力のなさで、刑事たちは危機的状況でも棒立ちで台詞をしゃべるばかり。構図も決まっておらず、カメラを動かす小細工もせず、単調な画面に気まずさすら感じる。ニチアサの特撮ヒーローがどれほど安っぽくとも絵が成立するよう気配りしているか、逆説的によくわかった。
ただ、いざアクションが始まると、かなり見られる絵が多くなる。邦画に求められるアクション演出の水準には達しているし、VFXのクオリティも悪くない。ブルガンダーなどは、原作通りの軽トラにガワをかぶせただけのデザインかと思いきや、巨腕の3DCGが自然でVFXアクションとして見ごたえがあった。


そんな安っぽい本編と見られる特撮で展開されるのが、母を亡くしたからといって父親*1の母乳で大門豊が育てられている困惑するしかない描写と、そのために大門豊の兄弟が死んで代わりとしてザボーガーが作られたという唖然とするしかない設定。
大門豊とミスボーグのラブストーリーにしても、状況としては抒情的なのに、キュートでもエロティックでもなく、安っぽい下ネタのようなVFXにどう解釈すればいいのか悩んだ。
ちょうど下記の邦画紹介漫画『邦キチ! 映子さん』第3話で主人公が紹介しているとおりの、制作者の正気を疑うような場面がはてしなくつづく。
スピネル | 邦キチ! 映子さん - 服部昇大 | 珠玉の女性向け作品を集めた無料漫画サイト
ただ、過剰な安っぽさと下ネタに目をつぶれば、第1部はそれなりに熱血漢なヒーロー像のリブートとして楽しめなくもないし、第2部の社会に埋没した中年がかつて他人に与えた熱を返されてヒーローとして再起する展開そのものは悪くない。


そしてリメイク映画として衝撃的なのが、全てが終わった後に流れる映像。これは先入観なく鑑賞してほしいところ。
老人となった原作俳優がヒーロー活動をつづけるまでは意外ではない。そこからエンドロールで映される、原作の場面集が衝撃的なのだ。
映画のどこが再現描写なのか知らなかったのだが、思いもよらない細部まで再現描写だったことを知らされ、現実と虚構が侵食しあう酩酊感をおぼえた。ドキュメンタリーと思っていた映画がフェイクドキュメンタリーと最後に明かされた衝撃の逆といおうか。
いや、もちろん『電人ザボーガー』は原作も映画も完全なる虚構ではある。しかし、てっきり正気を失った制作者の悪ふざけか、物語の都合にあわせた描写とばかり思っていた場面が、ことごとく再現だったと知らされた衝撃は他に類をみない。

*1:いつもの調子で竹中直人が演じているのが、また……