法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『007 カジノ・ロワイヤル』

イギリス秘密諜報員のジェームズ・ボンドは、人間を2人殺害するという条件をクリアし、007のライセンスを与えられる。
そしてテロ組織から資金をあずかってふくらませるル・シッフルという男に対して、ボンドはポーカーゲームをいどむが……


主演にダニエル・クレイグをむかえた6代目ボンド1作目にして、シリーズ通算21作目。2006年に公開された。
カジノ・ロワイヤル (字幕版) - YouTube
もととなったのは原作小説シリーズの1作目で、かつては継続作品と別会社が映像化権を取得していたという。
そのため1967年の映画化ではパロディ的なオリジナルストーリーになったりと、紆余曲折したあげく、ようやく正式に映画化された。


内容を見ると、しきりなおした新シリーズの1作目らしく、主人公が007となって初めてのミッションを描く。それにあたって、シリーズの定番をひとつひとつ確認するように現代的に再構築。温故知新的な作品となった。
たとえばシリーズ定番の冒頭演出、円の中から007が銃を撃ってくる「ガンバレル・シークエンス」。それがいったい何をデザイン化した映像なのか、この映画を観て初めて実感できた。
好色なヒーローが作品ごとに美女と関係をもつという男につごうのいい定番も、シリーズの始まりにおいては物語の根幹にかかわり、終盤の驚きを演出していたことが確認できた。


アクションに目を向けると、かつての牧歌的なシリーズ作品とは違って、とにかく激しくスピーディ。殺しのライセンスを取得したばかりの007は、力をこめて荒々しく戦うため、奪う命も重々しく感じられる。周囲を巻きこむように死体を並べていく描写も、現代のリアルな映像技術によって、爽快感だけでなく惨劇的な印象もある。
それでいて娯楽アクションとしての出来も良くて、屋内外から建設現場まで使いきった序盤の追跡劇など、パルクールをもちいた映画アクションでトップクラスだろう。中盤の夜間空港においては、カーアクションとVFXを組みあわせた緊迫感あるテロ阻止が楽しめる。少し前に観たのが、老いたショーン・コネリーが最後に007を演じた『ネバーセイ・ネバーアゲイン』だったこともあり、より対照的に感じられた。
何より印象的だったのが、最後の戦い。縮尺1/3という巨大なミニチュアを使って、良い意味で特撮らしい映像表現が楽しめた。合成も活用していて現代映画の水準にとどくVFXのクオリティがありつつ、建物がゆっくり崩れていく状況からジオラマのような箱庭感がある*1。ド派手なスパイアクションが展開された後の、ミニマムなドラマにふさわしいアナログな描写だった。


ただ私に原因がある問題として残念だったのが、後日談にあたる22作目を先に視聴してしまったこと。
『007 慰めの報酬』 - 法華狼の日記

誰の何が悪いって、『007』シリーズは各作品ごとに完結しているという私の先入観。ある程度まで人間関係を知っていれば、どこから見ても楽しめるだろうと思いこんでいた。
しかしこの『慰めの報酬』は、シリーズで初めて前作から直接的に続いている作品という。時系列としても21作目の結末のすぐ後から始まっているという。

恐れていたよりもネタバレが致命的。22作目に出てくるアイテムから、黒幕が登場してすぐ正体から心情まで見当がついてしまう。後半の大半をしめるポーカーゲームも、心理と頭脳の駆け引きとして演出しているのに、黒幕を知っていると全てが茶番に感じられた。
そして戦いが終わった後、観客を驚かせる準備の描写を見ても、いつ真相が明らかになるかを待つだけの時間になってしまった。真意を知った上で見返せば、けっこう味わい深い抒情的な場面と気づかされるのだが。

*1:こちらでいくつかのメイキング画像が紹介されている。SFX/VFX映画時評