2015年から1時間に短縮されて定着した大晦日SP。力の入った新作ふたつに、感動的中編の再放送ひとつという構成。
帆船をしたてた「ドラりん丸」も20年ぶりに復活し、鹿児島県の小島「宝島」で現地と交流する様子が描かれた。
「十二支変身サイコロ」は、出た干支の動物に5分間だけ変身できるサイコロを使って、のび太がしずちゃんに接近しようとする。しかし肝心な場面でうまく変身できず……
伊藤公志脚本のアニメオリジナルストーリー。一足早く正月らしい風景から始まり、のび太がウサギのふりをしてしずちゃんに近づくまでの前半と、失敗してサイコロによるトラブルが蔓延する後半に別れる。
さして巧妙な構成の物語ではないが、複数の要素をうまくひとつの短編としてまとめていた。神様に会いに行く競争で干支の動物が決まったという昔話から、福男のようなイベントにサイコロがからむ偶然で昔話が意図せず再現されるという結末の、まとまり加減が良い。年末年始のイベントを組みあわせて物語をつくるというコンセプトと考えても密度が濃い。
コンテは五月女誠子で、原画に小野慎哉や大塚正実など。さまざまな変身動物のサイズ感がきちんと表現されていたし、競争前のモブシーンもリピート作画ながらよく動いていた。サイコロが足元を転がっていく作画も地味にていねい。
「ゆめのチャンネル」は、夜に眠れないのび太のため、他人の夢を視聴できる秘密道具をドラえもんが出してやる。他人が勝手な夢を見ていることにのび太はあきれるが……
2006年に映像化された短編を、高橋敦史の脚本コンテで再アニメ化。ストーリー自体は原作に忠実だが、とにかく他人の夢のディテールがひとつひとつ細かくなっており、配役にこだわらなければ暇つぶしになると感じられるだけの娯楽として成立している。
特に最初に見る情景が、電線の映りこむカメラワークといい兵器のディテールといい怪獣映画として完成度が高く、ジャイアンの夢と判明するまでの落差が見事に強調されていた。この映像表現の見事さはクライマックスでも発揮されて、夢が現実にあふれでたというサスペンスをもりあげる。
もうひとつ、しずちゃんは原作ではのび太王子を噛ませ犬にして、より格好良い王子に助けられるだけだが、今回のアニメ化ではのび太のかわりに戦おうとする場面を挿入している。そのまま姫ひとりで怪物に勝利するとまではいかなかったが、活発な性格のしずちゃんらしさはあるし、ぐっと現代的な雰囲気を感じさせるアレンジとして、印象に残った。
「台風のフー子」は、何らかの動物を育てようとしたのび太が、ドラえもんの出した謎の卵を孵化させる。それは未来の科学者がつくった台風の卵だった……
初期原作をもとに、2007年に30分枠いっぱいで放映された中編の再放送。大野木寛脚本に三宅綱太郎コンテ演出で、かなりのアレンジが追加された。当時は嶋津郁雄作画監督とは思えない不安定な作画に落胆した記憶があるのだが、今回に見返すと意外なほどよくできている。
まず手近な鶏の卵を孵化させようとして失敗することで、それでも謎の卵を孵化させたいという心情を強めた。こっそりフー子が家の手伝いをする場面を追加して、そこに屋根が壊れている描写をいれこんで、終盤の野比家の危機を拡大する。フー子の手伝いが正当に評価されなかったことは、フー子が悪戯してしまう原作展開を強化もする。
終盤で最大の危機がおとずれているのに野比家の全景に漫画記号を足したカットなど、やはり気の抜けた残念なところもあったが、初期には珍しい感動的なエピソードをていねいにボリュームアップしたこともたしかで、かなり印象は良くなった。