法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

十年以上前に日本大使館でのウィーン条約の適用が問題になったことを思い出した件について

2002年の在中国領事館でのこと。現在でもインターネットで確認できる記事として、日本政府の弱腰を批判していた赤旗から紹介する*1
中国、日本公館内で拘束/日本側抗議 北朝鮮の5人引き渡し要求

中国遼寧省瀋陽市の日本総領事館で八日午後、北朝鮮から脱出してきたとみられる五人の市民が駆け込みをはかり、うち三人が警備の武装警官に取り押さえられ、総領事館の構内に入った二人も追ってきた警官に連れ去られた事件で、現在、五人は身元確認のため中国側の取り調べを受けています。中国側の警官が総領事館構内に入ったことについて、高橋邦夫駐中国公使は同日夕、中国外務省の邱紹芳領事局副局長にたいし、公館の不可侵を定めた「領事関係に関するウィーン条約違反」であり、「非常に遺憾」と抗議し、「関係者の速やかな引き渡し」を求めました。

 一方、中国外務省の孔泉報道官は九日の定例記者会見で、「現在の世界的な反テロリズムの背景」のもと、中国側の警官が「非合法に日本総領事館にちん入しようとした身元不明者」を連れ去ったことは「総領事館および人員の安全を保護する考え」によるものと強調し、「領事関係に関するウィーン条約の関係規定に合致している」と弁明しました。拘束中の五人については、公安当局が「身分を確認中」とのべるにとどめ、今後の対応について明言を避けました。

さすがに当時の日本側も抗議などをしたが、大使をひきあげるような強行な態度まではとらなかったし、中国側がいなして問題は収束してしまった。
かけこむ様子はTVでも大きく報道されていたが、「身元不明者」が武器などを所持している危険人物にはとうてい見えなかったことを記憶している*2
同時期に別の外国公館にもかけこみがあったが、どれも第三国を経由しての韓国行きに成功していた。一方、日本の領事館員は武装警官に協力的な態度を見せたことまで撮影されていた。“強きを助け、弱きをくじく”とはこのことか、と思ったものである。


公館内で亡命希望者が拉致された過去を受容して、現在の日本がある。
それでは在外日本公館の威厳とは何か。やはり“強きを助け、弱きをくじく”という価値観にしたがうことなのだろう。力をもたない市民よりも、力をもつ国家権力との関係を重視する。
それならば虎の威をかる狐として生きていくことができる。ある意味での実利もえられるだろう。もちろんそれは日本自身の威厳ではありえないはずだが……

*1:ちなみに赤旗はかけこみ支援団体とも距離があり、解説記事では「亡命を望む北朝鮮人については、本人の意思を尊重するという人権保護の観点から対処するのが原則です。政治的に利用するべきではありません」という意見も表明している。解説/ウィーン条約の順守を/外国公館には不可侵の権利

*2:同じ映像を見ながら、普段は北朝鮮体制を批判しているはずの人々が、しばしば亡命希望者へ冷淡な態度をとったことには驚かされたが。人権抑圧体制を批判しているのではなく、抑圧されている被害者をふくめて国家全体を悪魔化しているようにすら感じられた。