メラニー・ダニエルズは、小鳥店で出会ったミッチ・ブレナーに興味をいだき、悪戯心から店員のふりをして、小鳥をとどけにいった。
女だてらにデボラ湾をボートでわたり、ミッチの家へこっそり小鳥をとどけたメラニーは、帰りにカモメに襲われる。それが事件の始まりだった……
1963年のアルフレッド・ヒッチコック監督作品。DVDでひさしぶりに見返してみると、記憶とは違った楽しみがあった*1。
まず残念なところとして、けっこう前半がだるかった。約2時間もある映画で、本格的な襲撃まで1時間近くも待たなければならない。もちろん何度となく鳥の群れを見せたり、逃げ場のないボート上で一羽のカモメに傷つけられたり、サスペンスをもりあげてはいる。しかし、いたずらっぽく男性に会いにいく女性のドラマだけでは間がもたない。
当時は淑女から男性に会いに行くバイタリティだけで意外性があったのかもしれないし*2、今でも高級な婦人服を着たままモーターボートをあやつる女性の姿は珍しいが、現代の映画なら半分くらいに短縮するところだろう*3。
一方、後半に襲撃が始まってからは飽きさせない。学校から街へ逃げていく子供たち。給油中に襲撃されて炎上するガソリンスタンド。開放空間での襲撃から一転して、家屋に閉じこもっての奮闘劇。前半にメラニーが港町でボートやミッチをさがして歩きまわったおかげで、襲撃されている場面の位置関係がわかりやすく、登場人物が物語の都合でとどまっているような不自然さを感じさせない。
主人公をデボラ湾へ導いた恋愛感情もマクガフィンにすぎず、それで危機を切り抜けてハッピーエンドになったりはしない。予算があればもっと大規模な襲撃シーンで幕を閉じる予定だったそうだが、家を捨てて去っていく現状の結末で充分な余韻と余白がある。
ヒッチコック作品にしては珍しい、目をくりぬかれた死体のようなショッキングな描写もある。DVD特典のメイキングによると、目を黒く塗ったが穴が開いているように見えず、マットペイントで黒く塗りつぶしたという。
大胆なマットペイントの使用は死体だけではない。デボラ湾を主人公がボートで移動する場面、もちろん水面は実物だが、遠景の町並みも暗雲もマットペイントということはメイキングで説明されるまで気づかなかった。
ガソリンスタンドが炎上した時の俯瞰も、動く炎や人々の走る路地はセットだが、建物や船舶はマットペイントが合成されている*4。
照明をコントロールするためにロケ撮影を嫌ったヒッチコックゆえ、開放的な情景の多い作品だが、実際の風景を撮影したのは冒頭の都会や港町の一部だけだという。冒頭でも小鳥店の外観からはスタジオ撮影に切りかわり、路地から吹き抜けの店内まで巨大なセットが作られている。デボラ湾の街並みも多くが撮影所のセットというから驚きだ。
日常風景でも俳優をグリーンバックで芝居させ、CGの背景を合成する昨今のハリウッド映画を先取りしたかのようだ。そこを踏まえて前半を見返すと、その時点から一種の特撮映画として楽しむことができた。
鳥も襲撃してくる場面の合成はわかりやすいが、少数の鳥を多く見せる小技は気づきにくいものが多い。予告*5でも出てくるジャングルジムの烏は有名だが、大半がつくりものという。たしかに見返すと大半の烏が静止している。家から逃げ去る結末も、手すりなどで区切って、同じ鳥の位置を変えて多く見せているという。