法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

森達也氏の「棄権していい」というメッセージは、今回の新有権者へ限定したものではないし、きっと考えられているより根深いものがある

週刊プレイボーイのインタビュー企画における森達也氏のコメントが話題になっている*1
映画監督・森達也が新有権者へメッセージ「棄権していい。へたに投票しないでくれ」 - 政治・国際 - ニュース|週プレNEWS[週刊プレイボーイのニュースサイト]

選挙に行くことは、この国のグランドデザインを考えること。それを考えられない人は棄権していい。将来を考えると、「へたに投票しないでくれ」とも思います。

この発言の根拠のひとつとして、明治大学で教えている学生に意見をつのった結果の「ねじれ」が出されている。

学生20人ほどに支持政党を聞いたら、9割ぐらいが自民党支持だった。ところが憲法改正について聞くと、半分以上の学生が「憲法はこのままでいい」と答えました。

最終的には米国の大統領選挙を引き、考えられるなら投票してくれとも呼びかけている。

アメリカは同調圧力がなく、若い世代が政治に関心を持っている。日本の若い人にも、そういう意識を持つなら、ぜひ投票してくれと思います。


このようなコメントについて、インターネットを見た範囲では、どうやら批判が多いようだ。
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映画監督森達也さん、新有権者の若者へメッセージ「棄権していい。へたに投票しないでくれ」 ツイッター民反応まとめ - Togetter
だが私個人の感想として、森達也氏にしては前向きに投票をうったえているな、と感じてしまった。
ただ、反語的に投票をうったえているだけという読解も、それはそれで少し違うと思う。


森氏は2014年にも、政治を話題にするWEBメディア「ポリタス」において、選挙への無力感を語っていた。
【総選挙2014】もう投票しなくていい(森達也)|ポリタス 「総選挙」から考える日本の未来

もう投票しなくていい。僕はもうあきらめた。

そして自民党公明党が圧倒的多数となる予測と、それによって実現に向かうだろう自民党改正草案への感想を語りつつ、下のように結んでいる。

まあ実のところは書くまでもない。僕ごときに言われなくたって行かない人は行かない。行かない人はそもそもポリタスを読まない。そんな意識もない。結果はもう明らかだ。15日以降に誕生するのは世界でも稀な自発的な独裁国家(でも考えたらナチスドイツもそうだった)。これから4年間でこの国がどう変わるのか、とてもとても楽しみだ。

この逆説的な絶望感と比較すれば、新有権者への見方は前向きになっている。
少なくとも、棄権という選択肢の提示は、新有権者の支持政党が判明した結果でないことは明らかだ。


ならば、自民党に対立する政党の支持率が高まりさえすれば森氏は投票を呼びかけるだろうか。
そうではないのだ。
民主党への政権交代が予測されていた2009年、森氏は護憲団体へ下記のような文章をよせていた。
マガジン9条〜今度の総選挙、「護憲派」はどう考える?どこに入れる?(森達也さんの意見)〜

 最初に断っておくと、僕は民主党にまったく期待してません。政権交代して民主党政権ができたとしても、いまの政治の枠組み自体が変わらない限りほとんど何も変わらないでしょう。
 正直、民主党っていまだによくわからないんです。その正体も、なにがやりたいのかも。よく言われることだけど、憲法や安全保障の問題にしても左右の両端が全部そろっている。

戦略的投票への違和感を語ったり、メディアがつくりだした政権交代への機運を批判したりもする。

 このまま行けば、次の総選挙は民主党の圧勝でしょう。ここまでメディアが「政権交代」を盛り上げると、日本人って実は“判官びいき”ではなくてむしろ勝ち馬に乗りますから。民主党の勝ちが一気に加速します。僕自身は死に票でもいいから、どこか小さいところに入れようかなと思っています。

いまは連日のように東国原(宮崎県)知事で大騒ぎしているけれど、少し前は鳩山邦夫(前総務大臣)さん辞任関連の記事が一面のトップ。それによって麻生政権の支持率が下がったと言うけど、これだけ報道されればダメージを受けるのも当たり前。

そして政権交代がもたらす結果として、せいぜい「摩擦」による変化しか期待できないと結論づけた。

だから繰り返しになるけれど、政権交代しても本質は変わらない。ただこれだけ体がボロボロなんだから、多少のショック療法にはなるかもしれない。なかば投げやりな意見ですけどね。


森氏の選挙に対する見解は、民主党への政権交代をふくめて、一貫して無力感と不信感に満ちている。
もちろん、そのペシミズムを批判する意見もあるだろうし、それは出ても当然だろう。
ただ、今回の反発で憶測されているより、ずっと根深いことはたしかだ。


そして森氏への少なくない反発が、むしろ発した者に返っていくことも、まず間違いない。
そうでないというなら、政権交代直前の森氏の発言に注目し、同じように反発できた者がどれだけいるだろうか。
自分の都合で意見をたがえているのは、本当に森氏なのだろうか。

*1:文中の太字強調とリンクは、別ページの引用もふくめて原文ママ