法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ガラスの花と壊す世界』

地球のさまざまな記憶がつめこまれた「知識の箱」。その仮想現実内でウイルス駆除をおこなっている少女型ワクチンソフトのデュアルとドロシー。
スミレという少女のいた世界がウイルスに侵され、いつものように駆除したデュアルは、リモという少女型ソフトに出会う。


ポニーキャニオンの公募企画「アニメ化大賞」で大賞に選ばれたアニメ企画を、石浜真史監督で映画化。2015年末に公開された。
劇場版アニメ『ガラスの花と壊す世界』Official site
1時間7分という短めの尺だが、美麗な作画と美術で、映像作品として充実していた。作画で描かれた不気味なウイルスと、空間いっぱいにつかったアクションが楽しい。


物語を他の作品でたとえると、『マトリックス』の敵キャラクターだったエージェントスミスを主人公として、魔法少女アニメとして再構成したようなものか。仮想現実の秩序を守る側を主人公にした作品は珍しい。
仮想現実はアニメでも手垢のついた題材なので、設定を早々に明かした判断は悪くない。そこからソフトが常駐している何もない世界でのバトルから、さまざまな世界の記憶をわたりあるくプロモーションを自然に展開していく。
この作品設定なら、さまざまな仮想現実世界でウイルスを駆除していく一話完結ストーリーとして構成することもできそう。主人公ふたりの能力が強化されていくことにもソフト更新というわかりやすい説明がつけられている。


そして、現実にとって仮想にどのような価値があるかという問いをつきつけてくる。仮想と現実のどちらに価値があるかというような、よくある問いではない。夢をもたないと自己認識するワクチンソフトが、夢とは未来の可能性をもつことと認識していく流れもわかりやすい。
ひとつの仮想現実内が再現された過去であり、仮想現実の構築における起点だったというクラインの壺のような階層構造もおもしろい。仮想が現実に影響を与えていくというテーマを、うまく電脳SF設定におとしこんでいた。


ただ、中途半端に現実世界の男たちの会話を見せなくても良かったかな、とは思った。
そこでの男たちの台詞回しは平凡でつまらないし、誰の視点で描写されているのかもよくわからない。もともとデュアルたちとリモの会話でほとんど設定を説明できているし、男たちの会話で重要な情報が語られるわけでもない。
説明のダメ押しがしたいのだとしても、たとえばデュアルたちが世界の記憶をのぞきみるといったかたちで視点を統一してほしかった。