法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『レディ・プレイヤー1』

両親を亡くした青年ウェイドは、トレーラーハウスを積みあげたような近未来のスラム街に住みながら、一獲千金を夢見ていた。
ゴーグルをつけて楽しむ仮想現実世界「オアシス」。そこで三つの試練をクリアすると、創業者の遺言で後継者になれるのだ……


小説『ゲームウォーズ』を原作とする、2018年のスティーブン・スピルバーグ監督作品。金曜ロードSNOW!の地上波初放映で視聴した。
金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ

物語の舞台は、2045年。荒廃した世界に生きる若者たちが、VRの世界「オアシス」に眠るお宝を巡って大冒険を繰り広げる! キングコングT-REXデロリアン、「AKIRA」の金田バイク、メカゴジラガンダム、エイリアン、そしてキティちゃんまで! 1980年代を彩った名曲をバックに、映画やアニメのキャラクターがヴァーチャルな世界で繰り広げるド迫力のアクションに、胸躍ること間違いなし! 森崎ウィンの熱演も必見の、頭を空っぽにして楽しめる新世代の超王道お祭り映画だ!!

もとが2時間20分ほどで、30分も枠を拡大しているから、極端にひどいカットはされていないだろう。インターネットで検索したかぎり、細かい作品ネタのくすぐりが多く削られつつ、物語の印象を変えるほどではないらしい。


とりあえず、押井守のように虚構と現実を混乱させたり同等にあつかうのではなく、あくまで現実に基盤がある逃避先として虚構の価値を描いているのが面白かった。映画批評で指摘されているように*1、遊園地のライド感覚のように状況を演出する監督の作風が、虚構をひとときの逃避として描く物語とテーマとして一致している。
そうと理解すれば、あまり評価が良くない最後の結論も、あくまでゲームとして「オアシス」を位置づけただけだとわかる。もともと仮想現実作品にしては五感の表現などに限界がある設定だが、インターネットのような現実と等価の社会とは根本的に異なる。
空想的な近未来スラム街がきちんと生活感あるセットとVFXで、「オアシス」よりリアルな映像で描かれているのもポイントだろう。『マトリックス』三部作が仮想現実への抵抗で導入しながら作中現実はアンリアルなVFXで、最終的に仮想現実内での共存にいたった展開の逆転だ。


さらにいえば三つの試練にしても、さまざまな選択肢を主体的に決めていくゲームですらなく、指示にしたがって変化を体験するライド感覚に近い。最初のカーレースは創業者の意図に気づいてからは一本道だし、『シャイニング』もホテル内は基本的に逃げるばかり。
しかしそれがゲームらしくなくて悪いというわけではない。多彩なパロディが暴れまわる情景を表と裏で二重に楽しませたり、そこまでの近未来SFとは雰囲気を変えた空間を徹底的に再現することでギャップをきわだたせたり、主人公たちが状況に流されていくビジュアル作品としてはよくできている。
一本道の物語を決められた時間にそって見せていくのが原則の映画作家として、これはこれでスピルバーグが自作のような虚構を肯定することに真剣に向きあった結果かもしれない。もちろんそうではないかもしれないが。

*1:尾崎一男氏が「ライド・アクション型映画」と表現している記事を見つけたが、それとは別の媒体で読んだような記憶が漠然とある。 『プライベート・ライアン』革命を起こし続けるスピルバーグの映画作家としての矜持 |CINEMORE(シネモア)