法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「国歌吹奏の時、起立して敬意を示すのは万国の常識」「その万国ってどことどこよ?」

id:davs氏がツイッターで卒業式の日の丸君が代強制問題を議論している。
他者の権利どころか式典の進行すらさまたげないのだから強制するべきでない、というdavs氏の主張は明確だ。


そのdavs氏に対する異論反論に、少しばかり興味深いものがあった。まずzgmfx10afreedo4氏のツイートだ。

しかし、映るのは式典で国歌が演奏されたり斉唱されたりする風景のみ。式典に出席することが権利とひもつけられているのか、そこで歌うことが義務なのか、歌わなければ罰則がくだるのか、そういう日本の卒業式と同等だという情報が見当たらない。

davs氏が応じているように、強制か否かが論点である以上、たとえ式典参加者の全員が歌っていたとしても、それが自発的であれば反論にはならない。


そもそも映像というものは、世界の全体像を映すことはできない。どのようなドキュメンタリーでも、撮影と編集で見せたい一部を世界から切りとるからこそ、表現として成立する。
もちろんzgmfx10afreedo4氏の紹介した映像も、見せたい光景を切りとったものだ。だから紹介されている映像でも、たとえばベルギーの56秒ごろのロングショットを見れば、けっこう周囲は自由に行動していることがわかる。

ついでにドイツの1分28秒ごろ、国歌が終わって笑顔で拍手する人々の画面に、拍手せず横をながめている白髪眼鏡の男性が右上からフレームインしてくる。これはこれでカメラワークの作為が感じられた。


さらに上記の論争の数日前、jpn1_rok0氏との論争で、アメリカ国歌斉唱時に自由な人々を見た記憶をdavs氏が語っていた。

そしてさらに少しさかのぼると、国歌に対しては「起立して敬意を示す」ことが万国の「常識」だとjpn1_rok0氏が主張していた。どうやらベルギーは万国ではない。


さて、ようやくこのエントリの本題だ。
かつて文部省で主要国での学校行事と国旗国歌のかかわりが調査され、結果がサイトで公開されていた。かつて一部で有名だったが*1、現在はインターネットアーカイブ等をつかわないと読めない。
4 諸外国における国旗,国歌の取扱い
まずフランスやイタリアでは卒業式や入学式そのものがない。それぞれ国旗は掲揚しているが、国歌は斉唱も演奏もされない。
アメリカは国旗は掲揚するよう法律でさだめている*2。しかし国歌は各州にあつかいがゆだねられ、その各州は各学校にあつかいをゆだねている。カナダは国旗も国歌も州政府と教育委員会にゆだねている。
イギリスは国旗を掲揚しないし、国歌は大学の卒業式に王室がかかわる時に斉唱されることがあるのみ。国旗や国歌について学校で教えるカリキュラムすらない。ちなみにデンマークも国旗の掲揚や教育をしないらしい*3


全体として、学校側が掲揚して無視もしやすい国旗より、学生側が参加せざるをえない国歌が学校から遠ざけられている。
そこで国旗掲揚だけでなく国歌斉唱が習慣となっているのはどこかというと、中国と韓国である。中国はどちらも義務づけられ、韓国は国旗掲揚が法律で決められている。
卒業式における強制という文脈から考えて、つまりjpn1_rok0氏のいう「万国」とは、いまだ一党独裁国家の中国と、軍事独裁時代の習慣が残る韓国のことなのだろう。