法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

木村幹氏は吉方べき氏より先に自分の記憶力を疑うべき

先日の木村幹氏が吉方べき氏に剽窃されたと主張している件についてメモ - 法華狼の日記を紹介するツイートに、木村氏が反応していたのだが……

このツイートに、tomopop21氏が同意するようなツイートをしていた。


しかし木村氏のいう「注釈」とは何のことだろう。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12263445.html
論文でいう注釈にあたりそうな末尾はインタビューや解説部分に出てくる資料をならべているだけで、たしかに先行研究があるという説明はしていない。しかし「引用した新聞記事・書籍リスト」と書かれている。まさに紙幅の都合があるから論文のような体裁はとれなかったと考えるべきところだろう。しかもリストには挺身隊と慰安婦の混同にまつわる高崎宗司氏の論文も入っている。注釈を考慮するならば、「そういうのを全部無視」しているわけではない。

新聞でいう注釈にあたりそうなインタビュー後の解説部分は、吉方氏ではなく新聞社側が書いた可能性が高いだろう。その解説部分で研究者として外村大氏や藤永壮氏のコメントをとっているのだから。そして挺身隊の人数を推計している研究者として高崎宗司氏の名前も出てくる。
つまりインタビューで言及されていなくても、解説部分まで読めば、先行研究が存在することはうかがえる。紙幅に限りがある時、情報の重複をさける意図で、このような構成になっても不思議ではない。充分かどうかは意見がわかれるにせよ、記者は先行研究を押さえているのに、下記ツイートのように木村氏が評価したのはなぜだろう。


そして先日の私のエントリで指摘したように、吉方インタビューは朝日検証の「慰安婦問題を考える」の一環だ。
「こんな形態の新聞記事は見たことがない」とtomopop21氏は評していたが、実際は2015年7月に同じ構成で永井和インタビューが公開されていた。聞き手も同じ北野隆一編集委員だ。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11836618.html
最初に研究を始めた経緯を永井氏に質問して、何が明らかになったのかを聞きとっている。あくまでインタビューでは現在までの研究の進展を説明させ、永井氏の研究がどのように先行研究と異なるのかを論じてはいない。具体的な先行研究と比較しているのは、やはり解説部分でのことだ。
そしてこの永井インタビューについては、当時に木村氏も高評価していた。新たな学術的成果の提示としてではなく、「わかりやすい整理」として。

つまり、この特集のインタビューは、新説だけを報じるものではない。識者の見解によって、現在までの歴史研究の進展をまとめる意味もある。永井インタビューの原型となった論文は前世紀に発表され、インターネットでも広く知られている。
永井インタビューを木村氏がおぼえていれば、表現に慎重さが欠けているとか、明らかにした主体が不明瞭という批判は成立しても、先行研究にふれていないこと自体を批判する必要はなかった。木村氏が個人的に吉方氏を疑っている背景は考慮するとしても、やはり今回は勇み足だろう。
たとえば浅羽祐樹氏のように、自著でさえ先行研究にふれないどころか出典をまともに提示しない研究者もいる*1。仮に、一般向けならば可読性を優先して注釈を排するという考えが許されるならば、吉方インタビューに対してもその考えを適用するべきだろう。


また、木村氏が続けてツイートしている内容は、ちょっと話にならない。

すでにインタビューの原型にあたる論文で先行研究にふれていることが明らかにされているのだから、「先行研究を読みもしていない」可能性は排されている。ふたつの選択肢しか木村氏が提示していなかった以上、剽窃と主張していると読むべきだろう。