法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『岩井俊二のMOVIEラボ シーズン2』#2 闘う

今回の題材は闘う。基本的には人と人の格闘戦で、ドラマの対立としての闘いもふくまれる。
しかし岩井俊二監督も堤幸彦監督もアクション映画らしい作品が少ないので、自作紹介はどちらも変化球。『スワロウテイル』は敵地へ乗りこみながら人差し指で拳銃を向けるしぐさをするハッタリ、『天空の蜂』は向けられた拳銃の引き金を力づくで引かせようとするハッタリ。前者はそんなに珍しくないシークエンスであるし、後者はシークエンスがわかりにくい上に芝居や構図がドラマレベル。アクションシーンは時間を稼げるが、ドラマを動かすことが難しいといった意味のコメントは興味深かったが、だからこそアクション映画のオーソリティもゲストに呼んでほしかった。
他に紹介されたアクション映画も、ブルースリーマトリックスといったベタな作品を並べるだけ。どのようにアクション演出に新しい流れを生みだしたかといった解説は、『ファイト・クラブ』以降の格闘戦がリアルになったという漠然とした説明だけ。あと、なぜか古典的な剣劇がひとつも紹介されなかった。


1分スマホ映画はオーソドックスなアクションと、「闘う」に違う意味をこめた作品が半々といったところ。
http://www.nhk.or.jp/program/movielab/movie06.html
『達人』は、田舎道でのバカバカしい対決を描く。いかにも自主制作らしく、撮影に時間をかけすぎつつ何日もかける余裕がなかったのか、どんどん日が暮れていく情けなさにシュールな味わいはあった。真面目に考えると反面教師だが、堤監督も自作で日が暮れてしまったときに超能力で夜になったと設定したことがあるという。
『歩きスマホにご用心』は、スマホでアニメを視聴していて起こったイザコザを描く。スマホのイヤホンケーブルを利用した殺陣など、うまくカット割りでごまかせていて、相手に音声を聞かせて仲間にひきこむオチもまずまず。シンプルによくまとまっていた。
『惑星Aからの光線Wについて』は、外宇宙の戦争の痕跡と記憶を断片的に描いていく。大学敷地内の石畳がはがれている場所に、大学のたどった歴史を感じて、何かの破壊痕に見立てて撮影。そこに昨年の国会前デモで撮影した映像をオーバーラップさせたり、その素材を撮影した時の印象を監督が語ったり、あまり最近は見ないタイプの社会派自主制作。結果としてモンド映画のような味わいがあった。
『ヘッポコチビ君の野球対決』は、女性をかけて野球対決する少年ふたりを描く。サイレント映画風に字幕で台詞を出していることもあって、演技をつたなく感じない。しかし女性が一発打つ場面では、しっかり演技指導して何回も打たせて、野球がうまい女優のように見せることに成功していた。入れるべきところに力を入れた、ていねいな作品。
『テレビゲーム』は、テレビゲームで対戦しているらしい男女を映す。ベタな三角関係を切りとっただけで、どうにも面白味を感じなかった。テレビゲームの戦いを背後から映して男女の表情を隠すとか、ゲーム画面を映せないなら1カット撮影で緊張感をつくるとか、1分スマホならではのハッタリがどこかにほしい。
『インディポピンズ・キャンディポピンズ』は、前回につづいて岩井監督の自主制作。みっともなく草原をころがりまわる格闘を、高いカメラ位置から描くシーンを抜粋。どうやらテニスの審判台のような道具をつかって俯瞰撮影をおこなったらしい。


最後に『インディポピンズ・キャンディポピンズ』の元ネタとして、黒澤明監督『酔いどれ天使』も紹介された。番組では三船敏郎の存在感や、技術ではない感情のこめかたが賞賛されていたが、モノクロに映える白い塗料をぶちまけるような手間をかけた演出力こそ参照すべきではないかと思った。