法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『岩井俊二のMOVIEラボ シーズン2』#1 走る

2015年のはじめに放映された映画教養番組が、全4回予定で放映。ジャンルで分類したシーズン1に対して、さまざまな状況や行為の描写をとおして映画を解読していく。
http://www4.nhk.or.jp/movielab/
資料として古典映画の流れる時間が長いことはシーズン1と同じ*1。しかし、各映画におけるシーンの意味や撮影技法を細かく解説するにはいたらず、映画関係者が好きな作品ごとに感想をのべていくだけ。たとえば『ロッキー』を紹介するなら、街を走りぬけながら心理的にも物理的にも上昇していく主人公を演出しているとか、語りようはあったはず。
岩井監督自身の『四月物語』の解説も、要素が多いから奇をてらわずにとったという説明で、わざわざ番組のため選んだにしてはしまらない。


かわりにシーズン1では3作品が基本だった1分スマホ映画をたっぷり紹介し、感想をのべたり意図をたずねたりしていた。映画を学ぶのではなく、実技を講評する番組に変わったわけだ。
各作品は未公開2作品もふくめて公式サイトでも公開されている。
http://www.nhk.or.jp/program/movielab/movie05.html
『渋谷にて』は、自撮り棒での撮影から逃走劇がはじまるという、スマホの特性を活用した作品。あせって自撮りを続けているためカメラアングルが独特で、スローモーションやジャンプショット、さらに別カメラのロングショットをはさむタイミングも見事なので、走りを見ていて飽きない。さらに自撮り棒を小道具としてつかいきり、起承転結もしっかりしていた。これで俳優がもっとうまければ。
『カラフル』は、歌にのせてデートの場所へ走りながら、手渡された飲み物の色の服に変わっていくという、PVのような作品。最終的に男の服にあわせて黒い服にするオチも、作品のまとまりとしては良い。しかし1分間にあわせてもらった友人作の歌にアマチュア感があって、つたない俳優の演技ともども、アイデアに技術が追いついていない。
『今、走ってる?』は、深夜にスマホの調子が悪くなってから始まる恐怖劇。ベタなホラーとしてよくできているというか、ホラーは商業でも安っぽい作品が多いので気にならないというか。怪物の主観らしきカットをモンタージュしているのも好感。ただ、どれだけ恐ろしげにメイクしようとも眼がそのままだと厚塗りしただけとわかりやすい。ここは全眼コンタクトを使うか、どうせ一瞬だから修正アプリで地道に修正するか。
『バズるアイドル』は、注目から逃れようとするアイドルをスマホを手にした人々が追うというシンプルな作品。走るシーンに静止画をつかうことで、『渋谷にて』とも違ったリズムが映像に生まれていた。元ネタのAKB48のPVとの比較もおもしろい。しかしアイドル役の少女が外見はいいのに演技がつたなすぎて、独白は排しても良かったんじゃないかな。
『今日誰かが言った、走るのなんてくだらないと』は、とある街角で走ることの無意味さを考える青年のポエム。選定者も千原ジュニアも「若さ」を評価していたが、たしかに見ていてむずがゆくなる青臭さ。反抗のつもりでベタなネタにしかなっていない。モノクロからカラーに切りかえた結末で、走りだそうとする一瞬をとらえるとか、何らかのオチがほしい。
『好きだから』は、後遺症をかかえた中年男性が、雨の校庭を独りヨロヨロ走りつづけるドキュメンタリー。淡々としたモノローグが1カットに重なる迫力は、一見の価値がある。被写体は監督の小学校時代の恩師で、雨が降りだしたのは偶然で、もともと学生が帰る情景と対比させるつもりだったらしい。しかし撮影者の影が映りこまないよう気をくばっていたり、モノローグが肉体に言及するとバストショットからフルショットに戻したり、素材を活用する技術も充分ある。
『インディポピンズ・キャンディポピンズ』は、岩井監督23歳の自主制作で、走るシーンのみを切りとって放映。自動車で娘をひきながら日常風景をつづけるシュールさが楽しいし、明らかに撮影技術が他の1分スマホ映画より高い。自動車がひいたかのように望遠圧縮で見せる時、広角レンズで自動車が娘に近づく短いカットをモンタージュする技法など、解説を聞きながら感心するしかなかった。


あと、千原ジュニアが新MCだったが、これは機能していなかった。映画を題材にした冠番組をもっていたりもしたが、専門的なコメントは岩井俊二が担当することにかわりない。あえて映画素人目線を演じて質問役にてっしたりもしていない。