法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

慰安婦を題材にした韓国映画『鬼郷』への、niwakaha氏による奇妙な難癖

難癖を直接つけられている対象は、戦史研究家の山崎雅弘氏による下記ツイート。

読んでのとおり、山崎氏は日本の問題をとりあげているのであって、他国に同様の問題がないとは主張していない。
つまり特に話題になってもない外国映画をもちだすことからして奇妙なのだが、niwakaha氏はそう考えなかったようだ。

しかも映画の紹介記事を見ると、niwakaha氏は無根拠で嘘臭いと評しただけでなく、存在しない文章を読みとっている。


現在は削除されているが、朝鮮日報に書かれた映画紹介は下記のとおり。
Chosun Online | 朝鮮日報

この映画は1943年に15歳で連行され、地獄のような生活をした姜日出(カン・イルチュル)さん(88)の実話をモチーフに作られた映画だ。姜日出さんは病気になったほかの少女たちと一緒に生きたまま火の中に投げ込まれたが、朝鮮独立軍により脱出、絵で日本の蛮行を証言した。

 映画を見たアン・ヘウォンさんは「20万人を上回る少女たちのほとんどが戦場で性奴隷を強要され、苦痛を受けながら死んだり、永遠に故郷の地を踏めなかったりしたのではないか。魂だけでも戻ってこられるよう望む『鬼郷』というタイトルがあまりにも胸を痛める」と語った。

読んでのとおり、「朝鮮人女性20万人が日本軍の強制連行により性奴隷化」は前提事実になどされていない。
20万人以上の出自や、連行した実行犯や主犯を特定する記述はない。慰安婦の全てが連行されたとも読めない。そもそも観客の感想であって、映画がその感想を否定しないつくりだったことはうかがえるが、前提事実にされているとも確定できない。
実際の『鬼郷』のチョ・ジョンレ監督の認識だが、東亜日報のコメントを読むかぎり、総数不明と考えているようだ。
http://news.donga.com/BestClick/3/all/20160204/76321945/1*1

"公式に行った人の数字が分からない。 だが生き返ってきた朝鮮の女性たちの数字は公式に238人だ. もちろん虐殺記録もある。 映画にも出てくる。 必要なければ山に引っ張っていって殺してしまうと。 証言者が残した証言の記録を見れば全部死の記録だ。 だが、この記録は生きた人間の記録というものだ。 死んだ人の記録は死亡者だけ分かるという。 証拠をなくすために穴を掘っておいて虐殺した跡も発見されている。 一つ一つずつさらに明らかになっている状況だ"と説明した。

日本の歴史学とてらしあわせても、この監督の認識が特に奇妙だとは思えない。


ちなみにクラウドファンディングで制作された『鬼郷』だが、予告映像を見た印象としては、残念ながら韓国映画にしては映像に風格を感じない。
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のっぺりと単調な照明で、衣装やセットの汚しも不充分で、うまく低予算をごまかすことができていないと感じる。
物語にしても、性的被害を受けた現代の主人公が過去の問題と超常的に出会うらしいことが不安をさそう。
ひらひらと帰って来る少女たちを温かく迎える映画『鬼郷』 : 文化 : hankyoreh japan

映画は、1943年に慶尚南道居昌(コチャン)のある村で突然日本軍に連行された少女ジョンミン(カン・ハナ)の物語と、神がかった1990年代の少女、ウンギョン(チェ・リ)の物語を交差させながら進む。そして、解決されなかった歴史は、現在と出会う。性的暴行を受けた後、言葉を失ったかのように、自分だけの世界に引きこもってしまったウンギョンは、異国の地で踏みにじられ、死んでいった慰安婦被害者の魂を受け入れながら、彼女らの言葉を今日の人々に伝える者となる。

個人的な好みだが、史実を題材にした劇映画は良いものの、それを観念的に物語化して演出する作品は好きになれない。
過去の記憶を現代の物語に利用だけして、娯楽として消費しただけで終わらせかねない危うさも感じる。過去が現在につながっていることを見せるなら、実在の元慰安婦を結末で登場させるというよくある手法でいいし、日本軍の慰安所制度にかぎらない戦争と性暴力の歴史をモンタージュで見せるという方法もあるだろう。
あと、クライマックスで舞踏シーンがあるらしいが、はまれば映画へ効果的に高揚感をもたらすが、すべると全体の雰囲気が壊れかねない。『隠し砦の三悪人』や『母なる証明』のようにできるか、それとも『プライド 運命の瞬間』『南京の真実』のようになってしまうか。
あくまで報道記事からの想像にすぎないが、『鬼郷』は真面目な作家が無理に娯楽性をとりいれて失敗するパターンのような気がしてならない。実際に鑑賞すれば悪くない作品なのかもしれないが。

*1:引用文は、エキサイト翻訳を手直しせずに用いた。