法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『岩井俊二のMOVIEラボ シーズン2』#4 嘘をつく

シーズン2の最後は、さまざまな形式での嘘をとりあげる。ゲストは前回につづいて是枝裕和監督。
まず名作映画として『スティング』のポーカーゲームと、『太陽がいっぱい』で嘘が露見しそうになる場面を紹介。前者はベタな状況設定としか思わないが、後者は友人に違和感を指摘されていく積みかさねが緊張感にあふれていて印象的。
そして岩井監督が公開前の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』からネットとリアルをつかいわける場面を抽出したり、是枝監督が『歩いても 歩いても』から息子が犠牲となって救った青年に対する家族の隠された感情が出てくる場面を紹介したり。監督がシチュエーションを用意しつつ、俳優の演技にポイントがあるシークエンスのおかげか、過去回よりも雄弁に興味深い裏話を聞くことができた。挙式前の新郎に新婦が嘘をつくという状況のどぎづさや、救う価値があったのかと疑わせる青年を演じるため俳優の体型にこだわった話など、なかなか緊張感あっておもしろい。
特に是枝監督の裏話がおもしろい。『歩いても 歩いても』で樹木希林が当日の衣装合わせでレースの襟をもってきて、手作業することで場面をたもたせるという演出レベルでの介入をしたり。逆に『誰も知らない』でYOUが台本の先を知らず、帰ってくるといいのこして失踪した母親を、本当に帰ってくるつもりで演技して自然な描写になったり。


1分スマホ映画は、登場人物が騙しあうだけでなく、監督が観客を騙そうとする作品が複数あり。ドキュメンタリーとフィクションの境界線として議論がはずんでいた。
http://www.nhk.or.jp/program/movielab/movie08.html
『東京』は、故郷に息子を戻そうとする母親の説得を、レストランの片隅にカメラを固定して描く。その場その場で矛盾した説明をしつつ、真綿で首をしめるように息子を追いつめようとするオカンの、リアルな人物造形が見事。背後に壁がある席を正面から撮影し、カメラを固定したままカットを割らないことで、映像に圧迫感をもたせている演出力も高い。
『妖精』は、日常的な校舎で、なぜかぽつんと座る奇妙な妖精と、それを探しているサングラスの男に出会う。シチュエーションコントのようで、寓話のようでもあるし、現代ファンタジーのようでもある。上半身が裸で顔に包帯を巻いた「妖精」のデザインは、評者がいうほどには斬新とは思わなかったが、滑っているというほどでもない。定点カメラのようで手振れしている撮影が『東京』とはまた違った印象を生んでいる。
『【拡散希望】ストーカー殺人事件の証拠映像【ヤバい】』は、タイトルのとおり、誰かに追われている青年の自撮り映像風味。ちゃんとドキュメンタリーの素材らしくしあがっているし、オチもふくめて現代の映像の立ち位置をすくいとっている。この作品だけ抜きだしてYOUTUBEにアップロードされてもおかしくない、いろいろな意味で*1
『祖母は優しい嘘をつく』は、倒れた祖母が孫に対して楽観的な言葉をいうことを、それと知りつつ聞いている孫の視点で描く。これは撮影の直前に監督の身に起きた事実だそうだが、その普遍的な嘘で感動させるだけで、映画として特筆すべき見どころがあったかというと疑問。作品にするなら監督自身の嘘も足したらどうかと提案する是枝監督の、つまりは演出が足りないという指摘があたっている。断片的な映像と言葉を重ねて雰囲気は出していたが。現実を素材にしているからこそ、それにたよらず演出をくわえるべきということは、ドキュメンタリーにも当てはまること。