法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『岩井俊二のMOVIEラボ シーズン2』#3 恋をする

今回は『海街diary』の是枝裕和監督をゲストにむかえて、さまざまな映画から恋愛を演出した描写を引く。
あいかわらず岩井監督も是枝監督も作品だけで語って解説したくないのか、あるいは照れがあるのか、俳優の演技をそのまま撮ったかのような説明ばかり。構想段階ではクローズアップのカットバックを入れるつもりだったが、ロングショット*1長回しで男女を映しつづけることへ変えた判断など、撮影メイキングとしてはおもしろかったが演出解説としては弱い。
かわりに『マディソン郡の橋』の解説などは明瞭だったし、語りたがりの監督でなければ、やはり名作を現場のプロの視点から解題していく方向にしぼるべきだったのではないかと思った。


1分スマホ映画はシーズン1のように4作品だけ。かわりに個々の質は高かった。コンセプトが明瞭な作品ばかりなので、質疑応答もしっかりしている。
http://www.nhk.or.jp/program/movielab/movie07.html
『私は明日から恋をする』は、さまざまな日常の断片と語りで、男女の微妙な機微を描こうとする。1分間しかないことを逆手にとって、雰囲気づくりに全てをかけてまとまっていた。街のなかに男女を配置して、きちんと被写体が浮かびあがりつつ絵として成立しており、撮影技術も立派なもの。
『ストリート・ラブ』は、男女の距離が縮まっていくさまを、某グルストリートビューのように描写する。女優のいる青森をロケハンする時にストリートビューをつかっていて、それが演出としてもつかえることに気づいたのだという。そうして準備しただけあって良い風景を選べているし、ストリートビューから普通の撮影に近づいていくリズムの変化もできているし、スマホがある現代らしい映像表現になっている。
『チョウさん』は、中華店の店先の人形2体がかけあうさまを、デジタル技術を駆使して描く。なにげない会話の妙があるし、スマホアプリを活用して動かないはずの人形を目パチ口パクさせる思いつきもおもしろい。こちらもFIXの長回しで、人間がやってくると人形が動きを止めるというかたちでリズムをつくっていて、1分間を飽きさせない。
『月』は、さまざまな風景をとおして同じ月を見ている恋愛を想起させる。スマホというどこでも撮影できる機器があるからこそ、旅行先などで撮影素材を集めることができる現代ならではの作品。それでも、ちゃんと風景の広大さを感じさせるカメラワークになっている。冒頭と結末で「月」を出したことについて、一回で良いのではと是枝監督に問われて、1分間でまとめるため結末にも出したと答えた演出意図も明確。意図がしっかりしているから、その上での注文をつける議論が成立していた。

*1:正確にはフルショットくらい?