法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語 25周年スペシャル・春 〜人気マンガ家競演編〜』

恒例のオムニバスドラマ。今回は全作品の原作を漫画家の短編から選んで、かなりていねいに映像化した。
世にも奇妙な物語 - フジテレビ


「面」は永井豪原作。面を外すと中身がなかったという怪談を、子供たちが聞かされる。その時から、自分自身の顔が外れてしまいそうな不安にさいなまれる。
いかにも永井作品らしい伝奇的な導入から、レトロな味わいの別ジャンルへ移行する。ロケなのか合成なのか、中盤で登場する新築家屋の作り物っぽさと、その遠景に映る工場群がかもしだす不穏さが見事。「面」に代表される造形物の安っぽさも、作品の古めかしさにあっている。
たまたま原作を読んだことのある作品だが、ドラマとして文句なし。近年の原作者はメタな楽屋オチばかり連発するようになったが、かつては普遍的な不安を描く短編を、しっかりした伏線をはりながら切れ味鋭く描いていたのだ。


「地縛者」は伊藤潤二原作。その場から人間が動けなくなるという奇妙な現象に、小さな団体が会話するだけで解決しようとするが、被害は広まりつづける。
原作は未読だが、いつもの伊藤作品という印象。奇妙な情景を発端に、謎を解くにつれて隠されていた愚かさが暴かれ、やがて破滅が襲いかかってくるが、根本的な不合理は手つかずのまま終わる。
低予算なりに、オリジナリティの高い黙示録ホラーとして完成されているところは良かった。とはいえ、あの美しい絵柄を普通の俳優が再現するのも難しいのに、演技経験の少ない前田敦子では少し厳しかったかな。


「ゴムゴムの男」は尾田栄一郎原作。ヤクザの若頭が入院し、なぜか『ONE PIECE』に出てくるゴムゴムの実を食べてしまい、奇妙な復讐劇が始まる。
この作品だけ短編の直接的な映像化ではなく、設定を引用したオリジナルストーリー。ゴムのように伸びる手足のVFXはドラマとしてはそこそこ。それより良かったのがTVから飛び出すルフィ。きちんとセル画らしい絵柄を3DCGで再現し、若頭と肩をならべて語りあう。ヤクザな物語もベタにまとまっていて、もともと任侠映画からの引用が多い『ONE PIECE』の雰囲気と合っている。
しかし尾田作品には切れ味鋭い短編漫画集があり、そちらから選んで映像化してほしかった気分もある。


「蟲たちの家」は楳図かずお原作。とある男と浮気している女性が、自分が虫になったと思いこんでいる妻を紹介され、そこから不条理な密室劇が始まる。
最近は怪奇SFな長編や本人のキャラクターが有名かもしれないが、もともとは短編の名手。実際に怪物が登場する時もあれば人間の心理が怪物を生む時もあり、どちらのオチなのか読者は最後まで予想できない。
こちらは蜘蛛のVFXが最低限のリアリティを確保しており、蜘蛛の巣をまとった妻のビジュアルも雰囲気あり、原作者のカメオ出演もうるさくなく、順当なドラマ化ではあった。
ちなみに2005年のオムニバス映画において黒沢清監督が実写化している。そちらもほぼ原作通りらしいが、わかりにくいとして不評らしい。


「自分を信じた男」は石川雅之原作。存在感がなさすぎて誰にも気づかれない男二人が意気投合、その能力を使って銀行強盗をたくらむ。
いってみれば『ドラえもん』の「石ころぼうし」を応用したような作品。違いといえば機械まで反応しなくなるところくらいで、二次創作を見ているような気分になった。それなりに面白いが、個人的には新鮮味が感じられなさすぎた。
あと他がベテランすぎて、この作品だけ漫画家の知名度が落ちるような気がしないでもない。『もやしもん』をノイタミナで何度も映像化している関係での選択だろうか。