法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り 第2弾』あいあいパラソル/タイムマシンで犯人を/ムシャクシャタイマー/「映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」

今回は原作のある『ドラえもん』短編3作品と、昨年の映画『クレヨンしんちゃん』を放映するSP。
ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り|テレビ朝日
3月に放映されたアニメ祭り第1弾と*1、ちょうど逆の構図だ。


まず『ドラえもん』全体の印象だが、極端に原作から逸脱しているわけではないが、オリジナル描写を激しく、ギャグよりにしている。
それに映画に制作リソースをとられたためだろうか、絵柄に強い癖があり、描きなれていない印象すら受けた。OPクレジットを見ると、どうやら旭プロダクションが手がけたため癖が生まれたらしい。
そのふたつのアレンジのため、どことなくニセモノを見ているような印象が生まれた。あまり参加してこなかった会社のためか、珍しいレイアウトが見られたのは新鮮で良かったのだが。


「あいあいパラソル」は、あいあい傘を一定時間すると、向かって左にいるものが右にいるものに恋をするという秘密道具で悲喜劇が起こる。
異性でなくても人間でなくても恋をさせる。望まぬ恋愛ということを強調するため、同性愛をもちだす。いささか原作の時点で慎重さに欠けるエピソードではあった。せっかくアニメオリジナル描写を入れるなら、同性愛者を異性愛者にさせて悲劇が起きるくらいのひねりを入れても良かった。
もちろん、のび太しずちゃんに恋してほしいという願いも身勝手なものであり、それがうまくいかないことが風刺として要点ではある。それを理解した上で、ステロタイプな恋愛観におちいらぬよう注意してほしかったということ。
あと、媒体の違いを演出家が理解できていない問題があった。恋をするための時間経過が、物語の都合で長くなったり短くなったりして見えたのだ。望まぬ相手とは少し話しただけで恋されるのに、えんえん歩きまわってもしずちゃんのび太に恋をしない。原作のように漫画という媒体なら、時間経過を読者が想像するためごまかせていたのだが。


「タイムマシンで犯人を」は、学校の窓ガラスを割ったという冤罪をかけられて、のび太ドラえもんの助けを借りて過去へ時間移動する。
原作は連載初期に書かれたため、かなりドラえもんのキャラクターが異なる。それを除けば、いかにも藤子F作品らしいミステリ趣味にあふれた佳作だ。
それを今回のアニメでは、原作ではあいまいだった位置関係を明確化。それにあたって、カメラをふるように校庭の全景を映したり、しずちゃんという第三者が目撃したり、どのようにボールが飛んだか地図で示したり、といった描写を足した。スネ夫ジャイアンが罪を認める展開も、アニメオリジナルの物証に気づくというもの。
のび太の犯人説がより強固になり、くつがえすことが困難になるからこそ、どんでん返しの皮肉ぶりが際立つ。原作のポイントを押さえつつ、より本格ミステリらしくした、良いアニメ化だった。
やはり絵柄に癖はあったが、かなり独特なレイアウトで教室や校庭を描いていて、なかなか目新しかった。レイアウトだけで見るなら、クオリティそのものも低くない。


「ムシャクシャタイマー」は、むしゃくしゃした気分を晴らすため、あらゆるものを壊してから元にもどせる秘密道具が登場。
ほとんど原作と同じ展開で、オチの断ち切りぶりは完璧に再現されていたが、しずちゃんが意図せず街を破壊するオリジナル描写が、途中から雑になったのが残念だった。もっとピタゴラスイッチみたいに過程をふんでこそ面白くなる場面だろうに。
それに直後に放映される映画に合わせてか、原作ではスーパーカーだった描写がホビーロボットに変更。そういう大人もいるといえばいるが、特に展開や描写として面白くなったかというと、それほどでもないかな……


『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』は本編ノーカット放映。スタッフは、若手の高橋渉監督に中島かずき脚本という布陣。湯浅政明監督もコンテや作画として参加、わかりやすくクライマックスを担当している。


腰痛をかかえた野原ひろしが怪しいエステに誘われて入ると、ロボになって帰ってきた?!という発端から、物語は二転三転していく。
ロボひろしの背後には、ガンコオヤジの復権を目指す黒幕がいる。しかし当初のロボひろしは家事をたくみにおこない、ヒーローとして子供たちを助け、仕事もバリバリこなしていく。むしろ過去より温和な印象すらある。
しかしロボひろしが家族に受けいれられた時をねらって、黒幕が介入。ガンコオヤジとなったロボひろしは家族を押さえつけるようになり、街に居場所のない父親を集めて「ちちゆれ同盟」を結成。保守反動な社会運動を展開していく。
そして、しんのすけによってガンコオヤジ化がとけたロボひろしには、さらなる苦難と痛々しい真実が待ち受けていた……


見ていて、2009年の『ドラえもん』誕生日SPを思い出した。高橋渉監督がコンテ演出を担当し、これ以降の誕生日SPの映像水準をひきあげ、物語も今も強く印象に残っている。
『ドラえもん』ドラえもんの最悪な一日 - 法華狼の日記

未来世界のロボット病院で眠らされたドラえもんは、凶悪犯ロボット「デンジャ」と人格が入れ替わり、時を越えて追い追われるサスペンスが始まる。

家族の一員として異物が入りこみ、それによって現状の家族が懐疑され、しかし未来に向けて再生していく。ギミックを活用したロボットアクションも、映画のアクションの原型になったと感じられる。後半にいたっては、予想を超えて関連性がある物語が展開されていった。
個人的には中島かずき脚本を不安視していたのだが、物語の主軸は監督の作家性が反映されていたのかもしれない。そう思って見ると、2009年の誕生日SPを発展させ、真実を知った後も展開されるドラマがいっそう感慨深い。


ひとつ残念だったのは、黒幕がガンコオヤジを復権させたくなる現代社会の男女像が、ガンコオヤジと同じくらいステロタイプだったこと。
公園を子連れの母親が占有して男性が追い出されたり、夫が妻の尻にしかれて娘からもバカにされたりは、けして女性優位な現状とはいえない。その解決として男性と女性がゆずりあうようになる結末も甘すぎる。
もちろん男性が復権したくなる動機をつくるため必要な描写ではあるが、女性側の立場もあるという注意はほしかった。たとえば公園に男性がたむろっていたのは家事や育児をしないためでもあるとか、夫は自身がないがしろにされたことだけ記憶していて妻をないがしろにしたことには自覚がないとか。
せっかく保守的なガンコオヤジを批判的に描くなら、中途半端であってほしくない。黒幕側に感情移入させるなら、むしろ『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』くらいに踏みこんで、その愚かさを引きだしてても良かった。


映像面は評判通りに良かった。緻密なレイアウトや奇をてらったカメラアングルは目立たないが、状況のわかりやすいコンテが作画の良さを引き出す。
特に冒頭のカンタムロボ戦が、もともと良かった旧作からディテールアップされていて、映画らしい情報量があった。ロボひろしが目ざめた時なども、主観視点を表現するための背景動画*2が長時間つづいたのも面白かった。中盤のロボひろしのヒーローらしい活躍では、『クレヨンしんちゃん』らしい友人と主人公のやりとりも楽しい。後半に描かれる等身大のロボ戦闘も、やや徒手格闘が長すぎる気はするが悪くない。
ひとつ残念だったのが、湯浅政明担当のクライマックスパート。『映画クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』のロボ戦闘を作画した時はもちろん、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』のロボ作画よりも、アニメーションとして平面的にデザイン化されていた。ロボ戦闘の見せ場と考えると、前者の重量感や後者のスピード感におよばない。予想通りだが期待以上ではなかったし、近年は監督作品が多いので新鮮味にも欠ける。過去の映画での担当パートは勢いのまま駆け抜けていったのに、この映画は担当パートが長すぎて勢いを殺したのもマイナス。

*1:『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』ミッチー&ヨシりんとリアルおままごとだゾ/若い二人はこうして家を買ったゾ/「映画ドラえもん 新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜」 - 法華狼の日記

*2:背景を手描きアニメで動かす手法。風景の全体を動かす必要があるため、人や物だけを動かすよりも手間がかかる。たいてい横や縦だけでなく奥に動くため、正確なパースでなければ不自然になる。SOUL EATER ‐ソウルイーター‐ | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービスのOP、具体的には開始1分17秒から1分30秒くらいまでが、近年の代表例。