法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『名探偵コナン』江戸川コナン失踪事件〜史上最悪の二日間〜

アガサ・クリスティ失踪事件をベースにしたオリジナルストーリーによる2時間SP。伝説の殺し屋コンドウと江戸川コナンの邂逅から、外国の要人をねらった暗殺劇が展開される。金曜ロードSHOW!で放映された。
http://www.ytv.co.jp/conan/sp2014/
映画『鍵泥棒のメソッド*1の内田けんじ監督が脚本をつとめるコラボ作品と聞いていたが、ほとんど続編といっていいつくり。メインキャラクターの後日談が描かれているし、映画でメインの謎だった人物の正体も明かされてしまう。銭湯でころげて記憶喪失になる発端も自己パロディのよう。この作品だけでも楽しめるが、映画主人公の桜井武史の出番が説明不足気味だし、できれば『鍵泥棒のメソッド』の後に視聴するべきだろう。


さて作品そのものは、適度なスケールで展開される長編アニメとして充分に楽しめた。ここ最近の劇場版『名探偵コナン』シリーズが、映像ではスケールが大きいのに犯人像の小ささとアンバランスになりがちなことと比べて、ずっと良かった。
舞台こそ生活感あふれる市街地ばかりだが、光源を意識した作画と、台詞を抑制したドラマが、実写映画らしい雰囲気を生んでいる。複数スタッフが手分けする劇場版と違って、絵コンテを山本泰一郎監督がほとんどひとりで担当したらしいのが良かったのかもしれない*2。壮大な情景などなくても、緻密で奥行きある世界を描くことはできるのだ。
もちろんカーチェイスや爆弾といった派手な見せ場もある。その数を必要最小限にしぼって、ドラマのもりあげと映像を一致させており、映像リソース不足が目立つこともない。手描き作画で展開された山道のカーチェイスなどは、近年では珍しいコッテリと濃いメカ作画でいて、『ルパン三世 カリオストロの城』を思い出させるデフォルメされた映像が楽しい。他に原画に森久司がクレジットされていたり*3、けっこう作画アニメしている。


ミステリとしてはシンプルなつくり。作品の設定をいかしたトリックを名探偵側がしかけることと、位置関係の推理が良かったくらいか。時系列を前後させて謎解きを細かく軽快におこなっていく内田けんじ脚本らしい構成だが、先が見えすいているため時たま眠くなってしまった*4
一方でキャラクターアニメとしては意外と楽しい。お約束の毛利蘭とのメロドラマパターンを外し、たがいの正体を知る灰原哀と事件を追っていく。毛利小五郎が見当違いな行動をとるパターンも、画面の隅で簡単に処理する。メインキャラクターに足を引っぱられるストレスがたまらず、敵やゲストキャラとの純粋なかけひきを楽しむことができた。

*1:感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20140208/1391894551

*2:他に寺岡巌が絵コンテ協力としてクレジットされている

*3:あくまで憶測だが、毛利蘭が悪人の拳銃をはねとばすあたりだろうか。地面に落ちた拳銃の残像が面白かった。

*4:ずっとミステリとして楽しかった『アフタースクール』でも同じ感想をおぼえたので、内田けんじ脚本の語り口と相性が悪いのかもしれない。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20140123/1390519256