法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『映画スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!』

2012年10月に公開された、TV本編のコンセプトを濃縮した劇場作品。
映画スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ! 公式サイト 東映アニメーション
絵本の博覧会で追われていた不思議な少女ニコを、5人のプリキュアが救った。ニコにつれられて絵本の世界へ入ったプリキュアたちは、おとぎ話のキャラクターを演じて遊ぼうとする。しかし、おとぎ話が少しずつ違った展開になっていくとともに、ニコとキュアハッピーの秘密が明らかになっていく……


前々作の『映画ハートキャッチプリキュア!花の都でファッションショー…ですか!?』*1がTV設定を使いつつ独立した完成度の高い映画をつくり、前作の『映画スイートプリキュア♪とりもどせ! 心がつなぐ奇跡のメロディ♪』*2がTV本編のミッシングリンクを描いたのに対し、今作はTV本編で描ききれなかったコンセプトを抽出したパラレル作品といったところ。
各話のバラエティを重視したためTV本編では本筋にならなかった、キュアハッピーの絵本好き設定。その絵本好きの由来をTV本編とは独立して描き*3、おとぎ話らしい善悪二元論を超えて、プリキュアらしい結論へたどりついた。
それでいて物語の道筋は重すぎず、約70分と短い時間にサービスをつめこみ、飽きさせない。キャラクターのはっきりした5人がコスプレして絵本を演じることに始まり、おとぎ話のキャラクターがシャッフルされて展開を壊していき、ついには悪役がプリキュアの味方になる。おとぎ話パロディとして単純にバラエティあるし*4、古典的な物語の構図がゆらぐことが、ニコとキュアハッピーの衝突へつながっていく。
あまりTV本編では問題とされなかったキュアハッピーの幼さを、きちんと欠点もふくめて描いていく。だからキュアハッピーは直視して反省して行動できる。他のプリキュアも、絵本パロディやアクションの活躍にとどまらない。敵味方の争いが、どちらがどれだけキュアハッピーを好きかという内実であることが、善悪でわりきれない独占欲の物語をつむぎだす。
キュアハッピーとニコの因縁という本筋を守りつつ、無駄な人物はいない。そのこと自体が、どのような悪役にも居場所があるという結論を支える。そうして主人公の読む「絵本」に始まった物語は、主人公の描く「絵本」として美しく閉じた。


スタッフは、TVシリーズ構成の米村正二が脚本を担当。絵コンテには映画版の黒田成美監督だけでなく、TV版の大塚隆史シリーズディレクターも参加。映画版キャラクターデザインと作画監督は小松こずえ。
作画については、絵本の主人公がプリキュアに襲いかかってくる中盤のアクションが目を引いた。突出した映像こそないが、全体として絵に力が入っていて、映画らしい満足感はある。そもそもアクションがドラマの要点でないからこそ、起伏を抑えたのかもしれない。
林原めぐみ演じるニコも、幼い少女はひさしぶりのはずだが、さすが声に力がある。その他のゲスト声優も、基本的に安定感あるベテランばかりなので、安心して見ることができた。
さらに『映画スイートプリキュア♪とりもどせ! 心がつなぐ奇跡のメロディ♪』と同じく、ED後に全長版の3DCGダンスが展開される。そのダンスに観客が参加するための注意で、プリキュアが小芝居するのも楽しい。

*1:感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20130828/1377640845

*2:感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20141124/1417018632

*3:同じ米村正二脚本なのに、TV本編では別個の前日譚が描かれていた。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20121223/1356391687

*4:よく似た少年漫画『月光条例』が元ネタからひねりすぎていたことに比べて、オーソドックスなイメージを基本としているからこそ異変がわかりやすい。『月光条例』の感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20140526/1401166188