法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『魔法科高校の劣等生』OPで主人公のライバルのように描写されていた少年が、実際の決勝戦では最初に倒された件について

TVアニメ第16話まで見て、ひさしぶりに唖然とした。
赤毛の少年がライバルのように演出されているのは過剰という噂は聞いていたが、その情報から予想した展開を大きく下回っていた。


もちろん考慮すべき事情がないわけではない。この作品に限らず、トーナメント形式で試合する作品において、主人公とライバルは一度ずつしか戦えない。設定上で相手が強すぎると、練習試合すら描きにくい。そもそも、この作品において「九校戦」はひとかたまりのエピソードにすぎず、試合にそれほど話数をついやしていない。
しかし対決まで一度も戦えなくても、ライバルが格上であるかのように描く手法はいくつかある。主人公がライバルの強さを調べて確信したり、主人公が同格と認めるほどの強者を倒したり、準備段階で主人公の読みをライバルが上回っていたり、ライバルが油断も慢心もせずに試合にのぞんだり、試合中は一進一退の攻防をしたり。ところが、この作品で使われている手法は最初だけ。


まず、主人公がライバルの強さを調べて確信したこと。さすがに設定説明だけでは終わらせず、ライバルの強さを他校戦で見せるという描写はしている。序盤で感じた問題のひとつは解決された。
TVアニメ『魔法科高校の劣等生』を見て納得できる視聴者はいるのか - 法華狼の日記

主人公の勝利後に基本設定と例外設定が開陳されるため、あたかも後づけ設定のように感じられる。せめて作品世界の基準となる基本設定を描いておき、それを凌駕する主人公の例外設定を説得的に描いてほしい。

ただし基本設定こそ先に示されたものの、例外設定を試合中に開陳して主人公が勝利する問題は変わらなかった。このような展開がなされるなら、今後に主人公がどのような危機におちいっても危機感は生まれない。
次に、ライバルが主人公と同格の相手に勝てるかどうかだが、そもそも主人公と同格の相手が存在しないので不可能だ。主人公だけでなく学校自体が優勝候補筆頭で、ライバル戦前にほとんど優勝が確定しており、懸念といえば確実に優勝できるかどうかくらい。主人公が技術者としてつくことで女子は圧勝し、ある部門では上位3位を独占したりしていた。大きな敗北といえば第三者妨害工作が2件あった時くらい。主人公とライバルの戦いも、どうせなら新人戦でも優勝したいという欲から組まれたもので、どうしても勝たなければならないというモチベーションすら存在しない。
それほど主人公校とライバル校で差がついているのに、ライバルチームは勝利を確信して決勝にのぞむ。読み負けしてしまうところまではいいとしても、複数の可能性を想定もせずに勝利を確信していては強敵に見えない。慢心しているライバルに勝っても主人公の格は上がらない。おまけに主人公までも、能力では負けていると語りつつ、読み勝ちしていることは確信している。つまり慢心した者同士という、どうにもドラマとして盛りあがらない決勝戦なのだ。
そして実際の攻防だが、これが最も良くない。身体の動きで攻撃をさけるところはアニメとしての良さはある。普段は主人公が静止して敵が動きまわっていたのに、今回は逆転しているのも悪くない。しかし主人公は能力的に余裕を持っていて、その能力を秘匿するために苦労していた。つまり一進一退の攻防ではなく、ライバル以外との戦いに力がそそがれている。
おまけに試合後、主人公チームが語りあうのはチームメンバーの異常な強さのみ。ライバルのように描かれ語られてきた敵チームは一顧だにされない。敵チームで最初に倒れたのがライバルあつかいされていた少年で、最後に倒れたのが名前もないメンバーというのは、逆に弱者の奮闘っぽく見えて良かったが*1


前後するが、ライバルとの戦いで主人公は肉体に大きな損傷を受け、例外設定で切り抜けたカウンターで逆転勝利する。そのライバルによる攻撃は反則に当たるものだった。
つまりライバルを倒す過程であったとしても、主人公を傷つけることができたのは反則攻撃のみということになる。そしてこの「九校戦」全体でも、主人公校の大きな敗北2回は妨害工作と反則の組みあわせだけ。つまり、順当に試合すれば大きな敗北はしないということで一貫している。
規定通りであれば主人公側が負けることはなく、敗北しそうな緊張感が生まれるのは違反行為がある時だけ。そのような試合を見ていて楽しめるのだろうか。


もちろんスポーツを題材とした漫画では、主人公が特異的に強いという作品はけっこうある。現実的な強さしか持たない周囲に対し、蹂躙するように強さを見せつけることで、価値観をゆるがすような破壊的な爽快感を生む。卑怯すれすれにルールの隙間をつくことが、詐欺師のような頭脳戦として楽しめたりする。
しかし残念なことに、この作品の試合はどれも魔法を使った独自色の強いもので、ルールも主人公側のみ隙間をつけるというフレキシブルな厳密さだから、そうした爽快感は少ない。
何より、そのように分野やルールそのものと主人公が戦うような作品であれば、キャラクター個々人はライバルとなりえない。アニメスタッフは普通の作品っぽくライバルを位置づけようとして、原作のいびつさを強調してしまったのではないかと思う。

*1:しかし敵チームの3人中2人しか主人公が意識していないため、充分に調べあげていないという描写になってしまい、主人公もまた慢心しているという印象も生んでしまっている。