法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

架空スポーツアニメとして期待以上に良かった『プリンス・オブ・ストライド オルタナティブ』

1クールを通して競技シーンでアニメーションさせつづけ、挫折や練習をしっかり物語におりこみ、複数チームを登場させながらキャラクターが見わけやすい。
TVアニメ「プリンス・オブ・ストライド オルタナティブ」公式サイト
下記エントリで書いたように序盤から楽しんでいたが、安定したまま着実におもしろさを積みあげていってくれた。
2016年冬TVアニメ各作品の序盤について簡単な感想 - 法華狼の日記


日本のスポーツアニメとして珍しいのは、チームワークによるチームプレーを描けているところ。
もちろん、個人に技量があってもまとまりのないチームは惨敗するというエピソードもちゃんとある。しかし友情や仲間意識は大切だが、チームプレーとは少し違うのだ。
この作品の架空スポーツ「ストライド」は、視界が確保できない障害物リレーであるがゆえ、スタートのタイミング等を指示する「リレーショナー」という役職がある。そのリレーするタイミングは、思いがつながるドラマの見せ場となり、敵チームとの駆け引きが緊張感を生み、地味ながら重要な役職であると物語で示されていく。
そしてそのリレーショナーをふくめてトップクラスの選手でかためた速成チームが、主人公チームのライバルチームすら圧倒する実力を示して、最終回に立ちふさがってくる。連携技術とコミュニケーションによって、速成でもトップレベルのチームをつくれるというわけだ。この作品は学生同士の競技を描いているが、良い意味でプロスポーツらしさも描けていた。


また、主人公がリレーで走る選手ではなく、ベンチでモニターを見ながら指示を出すだけのリレーショナーになった経緯が地味におもしろい。
速成チームの監督は主人公の父なのだが、ストライドの普及のため世界中をとびまわり、主人公を家に放置しつづけた。それでなぜ主人公がストライドが好きになったかというと、幼少期に父親がストライドの楽しさだけを教えたから。こんなに楽しいストライドのために働くのだ、だから家族としていっしょに生活できないと主人公へ伝えようとしたから。ゆえに主人公はスポーツ教育者を父にもちながら、エリート教育されることもなく、ファンという立場のまま育って、部活動に入っても補佐的な役職についた。
いろいろなスポーツアニメを見てきた。主人公にスポーツの楽しさを教えたり、背中を追いかけさせる定石な親。主人公にスポーツを強制したり、逆にスポーツを全否定する駄目な親。スポーツ以外の道もあるのだと教えたり、進みたい道が何であろうと支える立派な親。しかし主人公に自分を許してもらうため、楽しさを教えつつ技術を教えないというベクトルで駄目な親を見たのは初めてだ。
ただし物語が進むにつれ、主人公がストライドを好きになった過去が他にもあると明らかになっていく。楽しさを実践させてくれた仲間は、楽しさだけを教えて実践させなかった父を超えた存在だ。日本最強といっていい速成チームに主人公チームが勝てたのは、その一押しがあったということだろう。


負傷した選手が堂々と身を引いて、不祥事から戻ってきた先輩*1に試合を託す、という節度を描いていたのも現代的で良かった。
その選手が部を維持するため数合わせで抱きあわせにされた将棋部という設定もいい。ただ先輩が戻ってくるまでの踏み台ではなく、きちんとチームへの愛着を持っているドラマとして昇華されていた。


女子向けゲーム原作だが薄味なつくりで、それも男性視聴者としては見やすさにつながっていた。
ただ売り上げがあまり良くないらしいのも、ネタアニメとしての踏みこみが足りなかったからかな。女性向けアニメでよく売れる作品は、序盤は視聴者がひくほどのネタで飛ばしてから、じっくり物語を安定させていくパターンが多い気がする。あまり安定しすぎるのもつかみが弱くなってしまうのか。

*1:この先輩がいないために主人公チームが弱体化していた問題が、学生チームの強さは短期間で変わる実証として、速成チームの強さの説明とした構成も地味にうまい。