法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『サボタージュ』

 麻薬捜査チームが麻薬組織の邸宅に突入した。はげしい戦闘のなかで麻薬捜査官たちは山積みの紙幣を発見し、一部だけ別の場所へ移動させて、大半を燃やしつくした。
 そうして麻薬組織から金を盗んだチームだが、すぐに疑われて厳しい監査をうける。しかも盗んだ金は何者かが横取りしていた。そして麻薬捜査官たちは謎の死をむかえていく……


 1936年にも同名のサスペンス映画があるが、こちらはアーノルド・シュワルツェネッガーが主演する2014年の米国映画。監督は同年に戦車映画『フューリー』が公開されたデヴィッド・エアー

 舞台も物語もまったく違うが、アガサ・クリスティの孤島ミステリ『そして誰もいなくなった』から着想したらしい。
https://www.crank-in.net/news/31243

 アガサ・クリスティー原作「そして誰もいなくなった」を題材にした、アーノルド・シュワルツェネッガー最新主演作『サボタージュ』が今秋に公開されることが決定した。

 たしかに、アクションスリラーにトリックやどんでん返しを組みこむことは珍しくないが、ここまで大がかりなガンアクションでありつつ本格ミステリのような連続殺人と謎解きを重視する映画は数少ない。
 普通の街や田舎の家という開けた空間を舞台にしているのに、事件関係者の戦闘力が強すぎて、あたかも閉ざされた雪の山荘のように容疑者がしぼりこまれてしまう展開は笑った。出入り自由なのにクローズドサークルが成立している。
 映像ソフトに収録された未公開カットは、本編では台詞のみで言及される子供の行方不明事件を実際に捜査するヒロインが描かれている。それをあえて削除したことで真実のはっきりしない不安感が強まっている。


 ただ老いたとはいえシュワルツェネッガーの存在感が強すぎて、それを中心とした全体の構図や真相となることが予想できてしまい、それをくつがえす展開にはいたらなかったのは謎解きとして残念だった。たぶん同じ物語でも主人公を無名俳優にするか、もしくは周囲も同格のアクション俳優をそろえれば、もっと先読みしづらい連続殺人事件を楽しめただろう。
 もっとも、シュワルツェネッガーといういかにもアメリカンヒーローな俳優は、実はヒーローとしてのアイデンティティに迷う作品でこそ輝く移民俳優であるとも感じた。映像ソフトに収録された別エンディングを見ると、よりシュワルツェネッガーのキャラクターを反転させた展開が確認できる。そう思うと、現場捜査官の迷いをリアルに描いたデヴィッド・エアー監督の『エンド・オブ・ウォッチ』をシュワルツェネッガーが賞賛したことも、ただの社交辞令ではないのかもしれない。