法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

野比のび太に射撃でドラえもんが勝てたわけ

さまざまな漫画作品からテーマをしぼって調査研究しているサイト「遠足新報」。性質上ネタバレも多いが、それを理解すれば既読でも未読でも楽しめる情報が多い。
その計測のひとつに野比のび太の射撃命中率を数えたものがある。
のび太の特技分析・射撃編―「スナイパーのび太」の射撃シーン全リスト - 遠足新報
銃火器や類する道具に限定せず、ねらいをつける必要がある秘密道具も細かく数えている。

残念ながら「百発百中の腕前」とまでは言えないようです。とはいえ、9割というのはかなりの精度。

その1割ほどしかない失敗のうち、のび太の射撃技術が設定として確立した後に、珍しく撃ちあいで敗北したエピソードがある。第20巻に収録された「ツモリガン」だ。

ドラえもんとの早撃ち勝負でまさかの敗北

このエピソードには複雑なメタフィクショナル演出に面白味があり、早撃ち勝負がなくても物語は成立する。
しかし『ドラえもん』に限らない物語の技法として、よく知られた設定を前提として、より過剰な設定を別人物に与えて際立たせることがある。その演出を使うため、わざわざ秘密道具を銃型にしてのび太を負けさせたのだろう。


さて、ツモリガンドラえもんが勝利した時、のび太は油断していた。そもそもドラえもんもツモリガンを持っているとは思っていなかったのだろう。その場面にいたるまで、ふたりは一丁のツモリガンを交互に使っていて、二丁目がある可能性を読者にも感じさせない。
しかしもうひとつ、のび太の射撃設定とは異なる設定が勝負の行方をわけた可能性がある。何も難しい話ではなく、該当のコマを見れば一発で理解できる内容だ*1

そう、のび太の射撃技術より上位の設定として、ドラえもんのドラ焼き愛好があったわけだ。どちらもギャグ漫画としてキャラクターの特異さを象徴する設定だからこそ、弾切れ以外では無敵に近い設定にも打ち勝つことができた。


真面目な話、この前後にはドラ焼き愛好設定が強調されたエピソードが目につく。単行本は初出順で収録されていないが、原作者自身がエピソードを選んではいるので、一定の傾向を見いだしてもいいだろう。
第20巻に限っても、新種の細菌でドラ焼きをつくりだそうとして地球を滅ぼしかける「へやいっぱいの大ドラやき」や、山みたいなドラ焼きという夢を特撮で映像化した「超大作特撮映画「宇宙大魔神」」というエピソードが収録されている。特に前者のドラえもんは、「これはとりあつかいをあやまると非常に危険なんだ。人類を絶滅させ……。」*2とか警告していたのに、ドラ焼きを目の前に出されたとたん考えをひるがえす描写がギャグ漫画として秀逸。
現在は大全集も出版され、初出を調べることも難しくない。ドラえもんのドラ焼き愛好設定が、いつ生まれて固定されていったかを調べてみるのも面白そうだ。