法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『鉄男 THE BULLET MAN』

塚本晋也監督による『鉄男』シリーズ3作目。代表作の記念企画だからといって肩肘はらず、あくまで娯楽として制作したという感じ。
国外上映を視野に入れたためだろうか、「鉄男」へ変貌していく主人公は外国人で、台詞も全編が英語。その肉体がかかえている秘密と、それにからんで息子が殺された因縁とで、戦いを余儀なくされる主人公。それを80分という短めの尺にまとめている。
反撃と復讐にゆれうごく心と、家族をかかえている立場は、まるでアメコミヒーロー映画のよう。わりと物語はきっちりしているし、主人公の選択も納得がいく。


しかし、主人公が戦う相手は今一つ。主人公の力をつけねらう組織との戦いは悪くないし、塚本監督自身が演じる戦いのため戦う狂人も嫌いではないが、似たような物語構成の『ストレンヂア 無皇刃譚』と比べると納得がいかない。
ただのサイコキラーならば塚本監督の演技で問題ない。『悪夢探偵*1における敵としては充分だった。しかし『鉄男』シリーズになると、怪人化していく主人公に見あう戦闘力が感じられない。クライマックスにいたっては、小物が怪物にじゃれついているだけに見えてしまった。
組織を裏切らずに重武装した隊員をひきいてクライマックスに突入するか、あるいは塚本監督も怪人化するかすれば、まだしも納得できたかもしれない。


もうひとつ、部分的な『鉄男』シリーズらしい騒々しい画面と音響が、ただ見づらいだけに感じたのも難だった。
1作目『鉄男 TETSUO』は自主制作に近いコマ撮りアニメ特撮が味わい深く、カルト作品となるのも納得の荒々しい映像が魅力だった。その延長となる2作目『鉄男II BODY HAMMER』は、適度にヒーロー作品らしくなり見やすくなった。それが3作目になると、さらに基本となる物語や演出が平易になり、点滅多用の怪物描写が浮いて感じられる。
『鉄男』らしくしようと自己模倣して劣化するより、平易な物語に準じた描写にてっしてほしかった。ところどころのアナログな特撮はきちんと面白かったのだし。