法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン 』

2011年公開の、マイケル・ベイ監督による実写版『トランスフォーマー』シリーズ第3作。
前作でデストロン*1を倒して秘密裏に勲章も受けた主人公だが、恋人とは別れて思うような就職もできず、新しい恋人の助けを借りながら生活している。そこに月面に不時着していたサイバトロン*2の遭難船と、それに搭載されていたはずのテレポーテーション装置をめぐって、世界をまきこむ裏切りに満ちた戦いがはじまる。


なんだかんだいって、それなりの大作バカ映画としては楽しめた。争奪対象がひとつのアイテムにしぼってあるから、説明不足なわりに進行状況がわかりやすく、目の前のアクションを素直に楽しめたところが大きい。
ただし2時間を超える長尺映画なのに、コンテナが破壊されて飛べなくなったはずのコンボイ*3が急に飛んでいたり、ところどころ説明不足も目立った。


第3部として物語のスケールが大きくなっているのに、米国の都市部でばかり戦うから、相対的にスケールが小さく見えてしまったのも難点。中盤のカーチェイスや夜間戦闘、基地内部の破壊工作、さらに終盤の崩壊する巨大都市まで、舞台のバラエティは充分だったが、世界規模の危機が起こっているとは感じられない。
比べると、第1作は監督の制御できる範囲に舞台をとどめていて良かったし、第2作は各国を移動して都市部にとどまならい多様な舞台で戦ってくれた。
ただ、宇宙空間で戦ってスケール感がなくなるよりは良かったとも感じる。その意味では、宇宙空間のセイバートロン星に巨大感がないのはしかたないが、せめて地上から空を見あげるカットに映りこませたりしてほしかったところ。


人間関係のせまさも物語のスケールを小さく感じさせる一因。三角関係のライバルが持っていた秘密なんて、物語の都合が見えすいている。その秘密が主人公に接近した動機となっているとは解釈できるものの、ヒロインをはさんでいることは説明がつかない。
三角関係の結末も、悪しきライバルが主人公を助けていたかと思えば陰謀をはりめぐらしていた悪党で、それを排除することで主人公とヒロインが安心してくっつくという、最低パターンのひとつ。ちなみに、もうひとつの三角関係の最低パターンは、良きライバルが戦場で華々しく死んで、残った主人公とヒロインがくっついて終わる『パールハーバー』だ。もともと展開の難しい三角関係を、制御できないのに描こうとするな、と声を大にしていいたい。
ただでさえキャラクターが多いのだから、ヒロインはいなくても良かった。ヒロインの女優が降板したのだから、男同士の愛憎ドラマにつくりかえることもできたはず。そうすればクライマックスの、因縁のないヒロインとメガトロンの会話で事態が動くという唐突な展開も、因縁があったライバルが会話を担当する展開に変わって自然なドラマになったろう。


トランスフォーマー側のドラマは、けっこう悪くなかった。過去作がサイバトロンと人間の交流を描いていたところを、デストロン側の動きに視点を変えて、目先が変わった。
メガトロンの再起と、センチネルの苦悩は、それ自体はアメコミ映画っぽいヴィランの物語になっていたし、それゆえコンボイの断罪もきわだった。特に、クライマックスで状況をひっくり返したメガトロンの心情は、そこそこシリーズを追いかけていたファンとして感じるところがあった。だからこそ、因縁のある相手と会話してほしかったわけだが。
さらに残念なことに、せっかく再起したメガトロンとの決着は一瞬で、余韻すら残らない。ひょっとして『椿三十郎』のような殺陣を見せたかったのかもしれないが、それには10秒以上の溜めがたりない。激しく動きつづければ場面ごとには派手になるが、全体の印象としては平坦になってしまう。監督の弱点が最後の最後に出た。


ちなみに、ヒロインを無くすと下記のような構成になるはず。

オタクニート主人公が秘密裏に英雄になったことで、知りあいになったイケメン御曹司。ルームシェアしながら仕事の世話をしてくれる御曹司だが、主人公の劣等感はたまるばかり。
しかし御曹司が主人公の立場を利用するため近づいたことがわかり、徹底的に決裂する。先代からデストロンの指示にしたがっていた御曹司は、苦悩をかかえながら世界侵略へ手を貸す。主人公も御曹司の指示にしたがってスパイをすることになっていたが、サイバトロンに救われる。
そして全面戦争がはじまる。戦いで全てを失っていく御曹司は、同じようにデストロンリーダーの地位を奪われたメガトロンに共感し、奮起をうながす。そして主人公と御曹司、コンボイとメガトロン、それぞれの決戦がはじまる。

なんというか、書いてみるとボーイズラブっぽい……

*1:とりあえず人間に敵対する悪玉っぽい側。海外作品や映画版では「ディセプティコン」と呼称される。今回は人間側に内通者を作っているところも要点。

*2:とりあえず人間に味方する善玉っぽい側。海外作品や映画版では「オートボット」と呼称される。

*3:とりあえず人間に味方する善玉っぽい側のリーダー。海外作品や映画版では「オプティマス・プライム」と呼称される。良い考えが悪い結果を生むことが多い。