法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

日韓基本条約で日本が謝罪済みだという解釈はおかしい

フジテレビ系列のバラエティ番組「ワイドナショー」での中居正広発言が、インターネットで批判をあびているとj-cast記事が伝えていた。
中居正広が日韓問題で「謝るべきところは謝ればいい」 「浅い知識で語るな」「幼稚な発想」とネットで批判 : J-CASTニュース
ワイドナショー」は未視聴だが、記事から受ける印象をいえば、単にコメントするタレントが台本にしたがって理想論と現実論に別れただけと感じた。その現実論が実際の現実に即しているかは別として。
もちろん台本の責任だとしても各発言を個別に論じることはできるだろうが、記事の表現も、ネットの批判も、的外れなように思う。

松本さんは日韓関係の原因をマンションの隣人同士に例えながら、「201号室と202号室と住んでたらそりゃ色々あるやんか。壁も薄いし」と語った。それに対する中居さんの発言は、「謝るところは謝ればいいんじゃないですか?」「(マンションの)隣同士で喧嘩になって騒音がうるさかったね、そこは謝ると」という安易なものだった。

比喩で表現すれば比喩で返されても不思議ではない。それに「謝るところは謝ればいい」は何でも必ず謝るべきという主張ではない。

その後も、「お話すればいいのにね。韓国も日本と仲良くしたほうがいいと思いますよ。韓国に限らず世界どこの国もみんな仲良くしたほうがいいんですもん。譲り合って歩み寄ってって、助け合ってって」
と理想論に終始した。

この「韓国も日本と仲良くしたほうがいい」という発言を見ても、日本が一方的に歩み寄ればいいという主張ではなく、韓国側からも歩み寄るよう求めている。
たとえ各問題において両国のどちらに責任があるかで対立していても、一般論として反発が出てくるようなものではない。


特に不思議なのはネットの批判だ。いつものように発言元を示さずに要約されているのだが。

「頼むからそんな浅い知識で政治を語るなよ」
「みんな話し合って仲良くとかこれが40過ぎた男の発言かよ」
「日韓の条約で既に謝罪して金も渡してるんですがね」

記事によれば「韓国の朴槿恵大統領が国際社会に向けて日本批判を繰り返していることや、安倍総理靖国神社を参拝したことが、双方の信頼度合いを低下させている」「竹島の不法占拠問題など歴史的経緯がある」と番組で解説されていたらしい。どれも「日韓の条約」で解決しているような問題ではない。


そして日韓基本条約には、まず下記のようなことが書かれている。

日本国及び大韓民国は、

 両国民間の関係の歴史的背景と、善隣関係及び主権の相互尊重の原則に基づく両国間の関係の正常化に対する相互の希望とを考慮し、

 両国の相互の福祉及び共通の利益の増進のため並びに国際の平和及び安全の維持のために、両国が国際連合憲章の原則に適合して緊密に協力することが重要であることを認め、

 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約の関係規定及び千九百四十八年十二月十二日に国際連合総会で採択された決議第百九十五号(III)を想起し、

 この基本関係に関する条約を締結することに決定

国際連合憲章の前文も、下記のようにうたわれている。
国際連合憲章 | 国連広報センター

われら連合国の人民は、われらの一生のうち二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳および価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念を改めて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること、

並びに、このために、寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平和および安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によって確保し、すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いることを決意して、

これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。

それぞれで、日韓が協力すること、寛容であること、善良な隣人となることをうたっている。
いいかえれば「みんな話し合って仲良く」そのものだ。


日韓基本条約とは、過去の問題を済んだこととして忘却するためのものではないし、相手国の要求をこばむための盾でもない。
それを持ち出すならば、友好関係を目指す理想論を否定できるはずはないし、あらゆる基本的人権を尊重しようとしなければならない。