法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

死刑制度を違憲と主張する弁護は異例?

象印の元副社長と主婦が被害者となった強盗殺人事件の裁判で、産経新聞が弁護側の主張をくわしく伝えていた。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/140227/waf14022717540031-n1.htm

極刑回避を狙う弁護側は死刑の違憲性を裁判員に訴えようと、元刑務官らの証人尋問で「絞首刑は残虐」などと主張したが、裁判員からの質問はゼロ。異例の戦略は果たして裁判員に響くのか。

しかし死刑が求刑されるような裁判において、死刑制度が違憲だと主張することは珍しくない。
オウム真理教中川智正死刑囚の弁護団は、医学的見地から残虐性を主張する書籍も出している。

絞首刑は残虐な刑罰ではないのか? ? 新聞と法医学が語る真実

絞首刑は残虐な刑罰ではないのか? ? 新聞と法医学が語る真実

今回の産経記事を読んでいくと、裁判員に向けて様々な観点や情報を示したことを、特異なことと評しているらしい。報じられている主張自体は興味深い内容だ。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/140227/waf14022717540031-n3.htm

 死刑執行に立ち会った経験がある坂本さんは「死刑囚は恐怖の毎日を送っていると思う。一番気をつけているのは自殺」「死刑囚が執行を知らされるのは当日朝で、誰が執行されるかの順番は分からない」などと証言。その上で、絞首刑の執行の様子について「開閉式の床が開き、(受刑者は)少なくとも4メートルは落下する。心臓停止後、蘇生(そせい)させないように5分間は首をつったままにする」と説明した。

 さらに「命で償うというのもあるが、(死刑にすると)税金を使いっぱなしになる」と指摘。「(無期懲役囚らのように)刑務作業で得たお金などで罪を償うことが、遺族の方のためになると思う」などと死刑に否定的な見解を示した。

 受刑者の更生を支援している岡本教授は、無期懲役囚について「仮釈放をもらうために懲罰を避けたいと考え、刑務官らに言われたことに従うだけ。自分の感情を抑制したロボットのような生活を送る」と表現。「死刑と無期で雲泥の差があるとは思わない」と述べた。

 また、無期囚と長年交流した経験を踏まえ、「無期囚は当初、先の見えない恐怖で『死にたい』と考えるが、そのうちに被害者の苦しみも理解する」として、生きて償うべきとの考えを述べた。

しかし裁判員裁判でも、パチンコ店放火事件裁判で2011年に前例があった。この時も「異例」と報じられていた。
弁護側「絞首刑は違憲」死刑執行の是非審理 大阪地裁 :日本経済新聞

「絞首刑は残虐で違憲」と主張する弁護側の証人として元最高検検事の土本武司・筑波大名誉教授(76)が出廷、「絞首刑は憲法が禁じる『残虐な刑罰』に限りなく近いと思う」などと証言した。

 裁判員裁判で死刑執行の是非について証人を呼び審理するのは異例。死刑求刑を想定する弁護側は「絞首刑は憲法36条が禁じる残虐な刑罰に当たる」と主張。

そもそも、弁護人は被告の権利を守るために力をつくすことが職業上の義務であるし、刑罰の制度そのものに問題があるならば訴えることも当然だ。事実関係に争いがなくても、与えられる刑罰が妥当であるかどうかを争う余地は一般的にある。
「異例」であると報じてしまっては、弁護活動について誤った固定観念を持たせてしまいかねないのではないだろうか。


そう思ってインターネット上の感想を読んでみると、はてなブックマークに首をかしげるコメントがあった。多くのコメントは違憲主張をしている背景を理解しているのだが。
はてなブックマーク - 【衝撃事件の核心】「生きたまま溶鉱炉に落としてやりたい」遺族峻烈…“鬼畜の所業”強殺犯の裁判員は「死刑違憲論」に反応するか(1/4ページ) - MSN産経west

id:hoshiyo
他に話の持って行きようがなかったんだろうなあ、とこんなクズの弁護を回された弁護士には同情する。もし自分から望んで弁護したのでなければ、だけど。安田せんせー(棒読み)はこの件でも弁護できんの? 2014/03/02

「安田せんせー(棒読み)」とは安田好弘弁護士のことだと思うが、あの人物が弁護しやすい被告ばかり弁護しているとでも思っているのだろうか。むしろhoshiyo氏が揶揄しているような安田弁護士への批難は、「クズ」の味方をする人間という固定観念にもとづいているとばかり思っていたのだが。
このような刑事裁判における弁護活動は負担ばかり大きく、金銭面の対価や名声は期待できない。そのため職業的な義務感からボランティアのようにおこなわれることが多い。それでも誰かが弁護をしなければ裁判は始まりもしない。たとえ「自分から望んで」であっても、「回された」ことと大きな違いはない。
実際、安田弁護士がオウム真理教事件麻原彰晃の弁護人をつとめたのも弁護士会から依頼されてのことだったし、光市母子殺害事件最高裁を欠席したのも旧弁護人が降りて時間がない状態だったためだ*1

id:augsUK
この場に憲法判断を持ってくるようなやつが弁護士資格を振りかざしてること自体嫌だな。坂本敏夫の発言が犯人にも勝るほど鬼畜な気がするが。これを遺族の前でいうのってセカンドレイプみたいなものに聞こえるけど。 2014/03/01

こちらは明らかに間違っているが、それほど理解できない主張ではない。
知るべき建前として、裁判所は見せしめの場ではなく、被害者や遺族の心情を慰撫する場でもない。遺族の心情を傷つけかねない弁護をしてはならないというなら、弁護活動一般が制限させられてしまい、冤罪事件の再審も難しくなるだろう。

*1:そのことは懲戒請求を煽った橋下徹弁護士も説明を聞いて一理を認めるよう方向転換していた。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20070830/1188517183