法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

希望は、死刑〜杉浦正健を引っぱたきたい〜

日本語が通じなさすぎると話題だった、保岡興治法相の発言。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080803k0000m040029000c.html

 保岡興治法相は2日の初閣議後の記者会見で終身刑の創設について、「希望のない残酷な刑は日本の文化になじまない」と否定的な考えを示した。

 法相は「真っ暗なトンネルをただ歩いていけというような刑はあり得ない。世界的に一般的でない」と述べた上で、「日本は恥の文化を基礎として、潔く死をもって償うことを多くの国民が支持している」と死刑制度維持の理由を述べた。

 終身刑を巡っては、超党派の国会議員でつくる「量刑制度を考える超党派の会」が5月、死刑と無期懲役刑のギャップを埋める刑として導入を目指すことを確認している。

 保岡法相は00年7〜12月の第2次森内閣でも法相を務め、在任中の死刑執行は3人だった。【石川淳一

終身刑が「日本の文化になじまない」という発言が、日本国憲法誕生時を思い出させて味わい深い*1
そしてこの終身刑創設を拒絶する理由を裏返せば、死刑が希望あり残酷でなく日本の文化になじむ刑、という主張と読める。死刑に希望があるなどという一般的でない考えを説明するには言葉が足りなさすぎる発言で、法相としての適格性に疑問符をつけざるをえない。
しかし、実は鳩山法相時代から、同様の詭弁が用いられた例がある。今年、死刑執行停止を多くの国から求められたことに対する、日本政府の回答だ。
以前に紹介したが*2、ヤメ記者弁護士ブログに掲載された国連人権理事会のレポートを再度引用する。

これに対する日本政府の答えですが、審査の最終コメントの部分で、法務省から死刑の執行を停止することは、あとで再開したときに残虐であるから執行停止をしないと答えました。

保岡法相個人の問題ではなく、もちろん報道した毎日新聞の問題でもない*3
詭弁を用いないと維持できない制度を続ける国家、公に政治の場で詭弁を用いる感覚、そのような薄弱な根拠で人権人格ある命を断つ人々……そういった「恥」知らずな現状こそが問題なのだ。


ところで疑問なのだが、死よりも長期間の拘束が重いという発想を正しいとするならば、拉致誘拐や拘束よりも殺人や傷害致死の罪は軽いと考えるべきなのか。
死刑より恐怖感や苦しみの少ない殺害方法……たとえば眠っている間に薬物で殺すことは、長期間の拘束よりは残酷でなく残虐でもないということにならないだろうか。人を苦しませず殺せば最高刑を無期懲役にして、期限をつけずに拉致監禁すれば死刑にするべき、とでも保岡法相は主張したいのだろうか。
こうなると、怪しいというだけで監獄っぽい代物に一般人を長期間拘束し、先の見えない苦しみを与える人々が死刑になるべき……などと思ってしまうわけだが。

*1:NHKスペシャル』「日本国憲法誕生」において、女性の権利を憲法で明文化しようとしたGHQ側に対し、日本の文化や歴史に「なじまない」という理由で拒絶する日本側が描かれた。

*2:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080517/1211063748

*3:発言が歪曲されている可能性が皆無とはいわないが、今のところ法相から記事訂正が要求されたという情報はない。