法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

おまえの罪を数えろ、われらの罪を数えろ

竹田恒泰慶応大学講師*1が、下記のようなツイートを投下していた。

ベトナム戦争にまつわる社会問題において、韓国の加害を米国でうったえる時に「日本とベトナム」というくくりで「連携」できるという発想が理解できない。ベトナム戦争において米国政府や日本政府がどちらの勢力にくみしていたかも知らないのだろうか。
記念碑などよりも広い話題をあつかいやすい博物館なのに、ライダイハンしか思い浮かばずアメラジアンの存在を考慮できない時点で、慰安婦像よりも視野がせまい。慰安婦像の碑文には、朝鮮半島をはじめとした占領地の女性だけでなく、日本の女性も犠牲者にふくまれていた。
グレンデール市の従軍慰安婦像に書かれた被害範囲を批判する人 - 法華狼の日記
もちろん日本人でも韓国人でも米国人でも、個別にベトナム戦争の犠牲者よりそって支援することは可能だ。さらに各国政府が反省の意図でそれらをおこなえるならばいうことはない。もともとライダイハン問題は韓国において従軍慰安婦問題と関連しながら研究されていたのだし、実際に元慰安婦を支援するための基金からベトナム戦争の犠牲者へ支援がおこなわれたこともある*2
しかし竹田講師の主張は、批判に対する反発という意図を直後に明かしており、建前すら守ろうとしていない。犠牲者非難の意図を持っていることは数日前のツイートからも明らかだ。

こういう主張がおおやけになされて批判されなければ、従軍慰安婦問題にとどまらず、さまざまな被害を訴える声を抑圧しかねない。


三者国に社会問題の記念碑や博物館を建てることは、そもそも非難されるべきことなのだろうか。
2013年8月、カリフォルニア州グレンデール市の慰安婦像についてレポートした毎日新聞記事は、きわめて興味深い内容であった。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130805k0000e070160000c.html

 米カリフォルニア州グレンデール市に旧日本軍従軍慰安婦を象徴する少女像が設置される前夜の7月29日、除幕式のため訪米した元慰安婦、金福童(キムボクドン)さん(87)がユダヤ系博物館で証言するというので聞きに行った。隣接するロサンゼルス市内にある第二次大戦中のユダヤ人虐殺を記録するホロコースト博物館で行われた。

 日本の戦争責任を問う元慰安婦の集会はソウルで何度も取材したが、米国では初めて。「事実を家族に打ち明けた?」「慰安婦と名乗り出た理由は」。質疑応答で司会者が、戦後の生活環境や社会に適応していく経過について細かく質問していたのが印象的だった。ホロコースト生存者や子孫の社会復帰に力を入れるユダヤ系らしい観点だと思った。

同じカリフォルニア州に、ホロコースト博物館が先に建てられていたのだ。犯罪のおこなわれた当事者国でないからと慰安婦像の建立に反対するならば、ホロコースト博物館に対しても同様に反対するのだろうか。
そのホロコースト博物館に元慰安婦が証言者として呼ばれていたことも重要だろう。さまざまな国家的犯罪で従軍慰安婦問題のみ注目されたわけではなく、国家的犯罪を問題視する範囲を広げた結果として従軍慰安婦問題が新たに注目されたという順序があるとわかる。
つづく集会参加者や政治家の言葉からも、さらに広い範囲へ目を向けられていることがわかる。

 「人ごとと思えなかったわ」。集会後にエレベーターで一緒になった中年女性が興奮した表情で話しかけてきた。「私、南米コロンビア系なの。少女の誘拐や売春の強要は、今もしょっちゅう起きている」。国際犯罪組織による人身売買事件と重ね合わせ、被害者救済のために何ができるか、考えさせられたという。

 本番の除幕式ではアルメニア系のシナニャン市議が、約100年前にオスマン帝国アルメニア系住民約150万人が虐殺されたとされる事件に触れながら、慰安婦への連帯感を力説した。「私の先祖は虐殺の被害者。トルコから何の謝罪もなく、今も傷が癒えていない」

 碑が設置されたグレンデール市は人口約20万人のうち3割がアルメニア系。虐殺事件の戦後処理を促す下院決議を07年に可決させたアルメニア系のアダム・シェリフ連邦下院議員の選挙区でもある。日韓摩擦が飛び火した現場は、全米でも有数の人権問題に敏感な都市なのだ。

 7月の公聴会で反対意見を述べた日本人は「人権問題はどの国にもある」と主張。「米軍周辺にも売春宿はあった」と逆襲する人もいた。

 米国は軍隊内の性暴力撲滅運動の真っ最中。「日本だけが悪い」とはだれも言っていない。むしろユダヤ系、アルメニア系、性暴力に悩む女性が時空や経緯を超え、それぞれ身近な事件と絡め、元慰安婦の痛みに共鳴しているというのが今の構図だ。被害者の傷と向き合う普遍的な言葉でなければ、米社会では届かないだろう。(ロサンゼルス支局)

もちろん反動的な動きもまた他人事ではない。従軍慰安婦問題を否認したり矮小化する主張がなされているように、ホロコースト否認論者は今なお否定されつくした詭弁を工夫なくくりかえし、アルメニア虐殺も否認や矮小化が問題になっている。
それどころか日本でホロコースト否認論を採用して雑誌をつぶした花田紀凱編集長が、また雑誌編集長として新しく作っている『月刊Will』に従軍慰安婦問題や南京事件を否認する記事がよく掲載されているという問題もある。第三者の人権や歴史を軽視すれば、いずれ当事者としても同様にふるまいかねない。


たいせつなのは罪の記憶を刻むこと、そしてそれを積み重ねていくこと。
広島市 - 原爆死没者慰霊碑には、「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれていますが、どういう意味ですか?(FAQID-5801)

「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれています。この碑文の趣旨は、原子爆弾の犠牲者は、単に一国一民族の犠牲者ではなく、人類全体の平和のいしずえとなって祀られており、その原爆の犠牲者に対して反核の平和を誓うのは、全世界の人々でなくてはならないというものです。

過ちを繰り返さないと誓えるのは、何が過ちかということを理解できでこそ。

*1:アカウントは[twitter:@takenoma]。

*2:http://japan.hani.co.kr/arti/politics/14996.htmlで報じられていたとおり、現状では日本政府から金銭的な支援はいっさい受けていない基金なのだが、日本からの補償金でベトナムに補償したというデマを流されてしまった。