笹山登生元衆議院議員という[twitter:@keyaki1117]氏と、編集者という[twitter:@tarareba722]氏が、それぞれ別々に起こしていた。
TwitLonger — When you talk too much for Twitter
(記者―慰安婦問題については、会長ご自身はどのようにお考えでしょうか?)
「あー、ちょっと、コメントひかえてはだめですか?
あのー、いわゆるね。そういうふうな、戦時慰安婦ですよね。
えー。戦時だからいいとか悪いとか言うつもりは毛頭ないんですが、ま、この辺の問題はみなさんよくご存知でしょう。
どこの国にもあったことですよね。違います?」
(記者―改めてもうすこしお考えすることがあればお尋ねしたいとおもいます。)
『まあ、こっちから質問ですけど、韓国だけにあったことだとお思いですか?」
記者「先ほどからあの、政府とNHKの距離の問題についてご発言されていると思うのですけど、思い出すのは今から10年、10年少し前にあったETV2001の問題のことなのですが、籾井会長も最近もあの、慰安婦を巡る問題については日韓間や日米間のあいだでいろいろ取りざたされております。
ところがETV2001以来番組はNHKにおいてはキチッとしたものが製作されておりませんけれども、慰安婦問題については、会長ご自身はどのようにお考えでしょうか?」【8:48頃】
籾井会長「(しばらく考えて)これはちょっと……、コメントを控えてはダメですか? あの……いわゆるね、そういうふうな、戦時慰安婦ですよね? えー戦時だからいいとか悪いとか、言うつもりは毛頭ないんですが、まあこのへんの問題は皆さんよくご存じでしょう、どこの国にもあったことですよね。違います?(しばらく会場沈黙)」記者「あ……、私に質問しているんですか。えっと、ではそしたらじゃあ、籾井会長が改めてその、お考えすることがあれば、お尋ねしたいと思います」
(再びしばらく沈黙)籾井会長「(会場を見回して)まあ、こっちから質問ですけど、韓国だけにあったことだとお思いですか?」
前者は従軍慰安婦にまつわる新会長の見解があらわれた部分の抜粋。先日の会長批判エントリを書く前に見かけていたが、他の情報源へのリンクもなく、あくまで自分の中で参考にとどめておいた。
籾井勝人NHK新会長が就任記者会見で、日本軍慰安所制度の固有性を無根拠に否認したとのこと - 法華狼の日記
後者は前後の質問もふくめた全体の詳細。会見の映像と思われるYOUTUBEリンクもある。ちなみに質問した記者が朝日新聞所属という噂が流れているが、記者は名乗ってすらいない。
まず、書き起こしそのものの雑感として、同じ会見から逐語的に起こされた文章なのに、小さな反応を拾うかどうかで雰囲気が変わるところが興味深い。それぞれのツイッターをながめた比較的な印象として、前者は新会長へ批判的で、後者はマスメディアに批判的。
念のため、書き起こし両方とも文意を損なうほどの恣意性はうかがえないし、これくらい両者の心象を反映してしまうことは批判すべきではないと考える。
記者会見そのものの感想についてだが、後者の文字起こしをしたtarareba722氏は「すべて文脈の中で出てきた発言だ」と評価して、籾井会長への印象が報道に比べて好転したようだ。しかし従軍慰安婦問題等が記者側の質問で出ていたことはすでに報じられており*1、それを知っていた私としては印象が悪化した。
文脈にそっていようがいまいが、籾井会長の認識が誤っていることや、主張の根拠を出せていないことに違いはなく、先日の会長批判エントリを訂正する必要はない。むしろ籾井会長は逆質問して自分から話題を広げようとし、それに対して記者は答えなくてすむような表現で応じている*2。
以降を見ても、記者は根拠を求めつつも、「いくつかの国でそういうことはあるとは思いますけれども」「もちろんそれは分かってるんですけど」などと、籾井会長を立てるような言葉が見られる。しかし籾井会長は他国に従軍慰安婦がいたという自説を述べつづけ、「逆に僕はね、なかったという証拠はどこにあるんだと、聞きたいくらい」などと立証責任を転嫁した発言までしている。
さらに、記者が質問してもいない「僕は一番不満なのは」という自分の心情を、「会長の職はさておき」といいながら始めて、補償を要求する韓国へ反発している。補償問題は日本政府の建前が明確に他と衝突している唯一の話題だが、籾井会長が始めたものだったのだ。
この記者の質問は「踏み絵」のように感じないでもないが、「罠」という印象はまったくない。日本政府の建前や歴史学上の一般論を述べるだけでも、何の問題もなくやりすごせた範囲にとどまっている。
むしろ後者の書き起こしから、従軍慰安婦問題が質問された文脈に、過去の『ETV特集』改変問題があると確認できた*3。脈絡が全くない質問ではない。これならばNHK側が準備すべきだったし、できなかったにせよ難しい問題と理解すべきだったとはっきりいえる。
領土問題、靖国神社参拝、従軍慰安婦問題と、少しずつ日本政府が問題と認めざるをえない話題へ移っている流れもわかる。それでも籾井会長は自覚しながら私見を主張せずにはいられなかったのだ。せめて従軍慰安婦問題は日本政府の公式見解にそっていれば、これほど間違った認識を露呈することはなかったろうに。
*1:http://www.asahi.com/articles/ASG1T5TK2G1TUCLV007.html
*2:そう思っていたが、ノーカット映像を確認したところ、記者があらためて質問していたことがわかった。この点については訂正し謝罪する。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20140129/1391011721
*3:噂としては聞いており、先日の会長批判エントリでもいったん冒頭で言及したが、確定情報がなかったので思い直し、上げた直後に訂正した。