法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

籾井勝人NHK新会長が就任記者会見で、日本軍慰安所制度の固有性を無根拠に否認したとのこと

過去にはNHK最高裁まで争った番組改編問題もあったのだから、事前に準備しておくべきだったと思うし、せめて準備できていなかったのならば答えるべきでなかった。
http://www.asahi.com/articles/ASG1T5J3XG1TUCVL005.html

 籾井氏は従軍慰安婦問題について「今のモラルでは悪いんですよ」としつつ、「戦争をしているどこの国にもあった」としてフランス、ドイツの名を挙げた。「なぜオランダにまだ飾り窓があるんですか」とも述べた。飾り窓はオランダなどにある売春街を指す。

他国がおこなっていたことは、批判に対する反論にはならない。
そもそも慰安所は、日本軍が要求したことにはじまり、募集する業者と契約し、設営や管理までおこなっていた。それと現在の一般の売春街を同一視していることから、何ひとつ歴史を理解できていないことがよくわかる。
慰安婦とは―女性たちを集める 慰安婦問題とアジア女性基金

設置に当たっては、多くの場合、軍が業者を選定し、依頼をして、日本本国から女性たちを集めさせたようです。

慰安所の生活 慰安婦問題とアジア女性基金

慰安所の建物は軍が提供したり、建設したりしました。警備は軍が行い、さらに営業時間、休業、単価も、部隊別の利用日の割り振りも軍が決めていました。

しかも、よりによってオランダを例示している。軍による直接的な強制連行がおこなわれた被害国のひとつではないか。
慰安婦にされた女性たち-オランダ 慰安婦問題とアジア女性基金

一部の日本軍関係者は、収容所に抑留されたオランダ人女性と混血女性を慰安所に強制的に連行して、そこで日本の将兵に対する性的奉仕を強いました。その代表的な事例がスマラン慰安婦事件です。


問題を認識するにあたっての視野のせまさは、続いての発言でも確認できる。

 さらに「会長の職はさておき」とした上で、韓国についても「日本だけが強制連行したみたいなことを言っているから話がややこしい。お金をよこせ、補償しろと言っている。しかしすべて日韓条約で解決している。なぜ蒸し返されるんですか。おかしいでしょう」と述べた。その後、記者から会長会見の場であることを指摘されると、発言を「全部取り消します」と話した。

補償要求に反発する発言については、もともと日本政府が使っている「解決」という文言からして良くない。あたかも補償はおこなわれたかのような印象をもたらしてしまう。実際には、補償しなくても追求されずにすむように当時の韓国政府と約束したということ。
もちろん個人請求権という被害者個人が請求する権利は残っているし、日本政府が立法措置などで新しく補償することを条約が禁じているわけでもない。単純化していえば、実行力をもつ韓国政府が追求できないので、日本政府は踏み倒すことができるし、現在まで踏み倒しつづけているというだけ。誇らしげに語れるようなことではない。
現実には問題の広範さを示すように、フィリピンや台湾などからも補償を求める訴訟が起こされていた。
「慰安婦」訴訟の経緯 慰安婦問題とアジア女性基金

1991年を皮切りに、アジア女性基金が償い事業を行った韓国、フィリピン、台湾の元慰安婦が原告となった訴訟が次々と始まりました。

上記のほか、オランダの元慰安婦、中国の元慰安婦らも提訴しています。

同じページにある「訴訟の権利を失うという風説」へのアジア女性基金および日本政府の見解にも、注意が必要だろう。

 途中、アジア女性基金の償い事業を受け入れれば日本政府に提訴する権利を失うという誤った話が流布し、多くの被害者がこれを信じていた時期がありました。
 基金がこの説を強く否定したところ、裁判を支援する団体は、「日本政府の認識を書面にして示して欲しい」と主張しました。基金はこの要求を受けて書面(全文はこちら)を団体に宛てて発出、新聞広告等にも入れて公開するなど、被害者の誤解を取り除く努力をしました。  

どうして「蒸し返される」のかといえば、この新会長のように公的な立場で問題性を否認することが絶えないことも一因だろう。


なお、同じ朝日記事でも質疑応答全体の要旨では、印象が少し異なる。
http://www.asahi.com/articles/ASG1T5TK2G1TUCLV007.html

 戦時中だからいいとか悪いとかいうつもりは毛頭無いが、この問題はどこの国にもあったこと。

こういう回答だったとすると、さすがに良いとは評価しなかったものの、悪いという評価をおこなわないと明言したことになる。当時の視点においてさえ非合法な運用がまかりとおっていたのだが。
さらには、現場の日本兵にとってすら必ずしも求められてはいなかった。師団長がアンケートをとったところ兵士は女性よりも甘味をほしがったという証言や、女性に金だけわたして自由に読書する時間にあてていた学徒兵がいたという証言もある*1
前後するが、靖国神社参拝に対する質疑応答との整合性もない。なぜ日本の慰安所制度では事実を淡々と語れないのか。

 ――靖国神社の参拝と合祀(ごうし)についての考えは。

 総理が信念で行かれたということで、それはそれでよろしい。いいの悪いのという立場にない。行かれたという事実だけ。

 ――NHKの報道姿勢としてはどうか。

 ただ、淡々と総理は靖国に参拝しましたでピリオドだろう。