法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

川奈まり子氏の従軍慰安婦問題へのコメントを読んで、いろいろ深刻なものを感じた

yuantianlaoshi氏の上記ツイートや、その賛同ツイートに対して、川奈まり子氏は下記ツイートのように釈明しているのだが。

実写AVと日本軍慰安所について、それぞれ一定の被害の存在を認めているだけでも、現在のインターネットにおいては比較的にまともな見識かもしれない。
だからこそ、そのような見識をもつ人物でさえ、20万人という数字を無根拠に「非現実的な数値」と表現したり、白馬事件をもって「全て強制と捏造された」と表現したりする、現在のインターネットの残念さがつらくてならない。


まず、「20万人」は歴史学者が推計している範囲の、現時点で代表的な数字だ。半官半民のアジア女性基金が言及した推計数における中央値でもある。
慰安所と慰安婦の数 慰安婦問題とアジア女性基金
推計値を引きさげている歴史学者として秦郁彦氏がいるが、2万人という推計は延べ人数と実人数を混同した結果であり*1、2015年の記者会見においては日本兵の海外兵数を戦没者より少なく見積もっており*2、それぞれ批判されている。もちろん2万人だとしても膨大な数字というべきだろう。
ちなみに日本軍は部隊を展開するたびに慰安所をつくっており、1945年までアジア太平洋一帯に広がった。代表的な慰安所だけを記しても、「非現実的」と思いたくなる地図ができてしまう。
慰安所マップ | Fight for Justice 日本軍「慰安婦」―忘却への抵抗・未来の責任


また、白馬事件もしくはスマラン事件と呼ばれる軍隊の直接連行事件だが、唯一の事例ではない。アジア女性基金においても、占領してすぐの地域や最前線で複数あったと考えられている。
慰安婦にされた女性たち-フィリピン 慰安婦問題とアジア女性基金

フィリピンでは、軍の占領地域で現地部隊が一般女性を強姦した上に、暴力的に拉致・連行して、駐屯地の建物に監禁し、一定期間連続的に強姦をつづけたことも多かったことが証言されています。

慰安婦にされた女性たち-インドネシア デジタル記念館慰安婦問題とアジア女性基金

部隊が独自に女性を強制的に連行して、自分たちの駐屯地に慰安所のようなものをつくる例が見られました。西ジャワ地区に多くみられると報告されています。村から町へ働きに出ている女性が帰り道を襲われるというケース、両親が仕事で出かけて、一人で留守番をしている間にさらわれるというケースもみられます。

慰安婦にされた女性たち-その他の国々 慰安婦問題とアジア女性基金

日本軍が占領した中国の農村部において、兵士たちが村の女性をレイプし、一定の建物、場所に監禁し、レイプをつづけるということが行われたという証言があります。山西省孟県では、このような行為の被害者が名乗り出て、日本で訴訟が提起されました。

そしてスマラン事件を朝日新聞が再発見してスクープしたのは1992年7月。騙されて慰安婦にされたという金学順証言を朝日新聞が報じてから、約1年後のことだ。
つまり慰安婦を集めた方法が複数あったこと、朝鮮半島などでは下請け業者による人身売買が主だったことが、スマラン事件が報じられたころには明らかにされつつあった。軍隊が直接的に集めることが主要な問題ではなく、軍隊が主体的に慰安所をつくろうとしたことや、慰安所という現場での拘束や強要こそが核心だと、被害者の訴えで認められつつあった。
そのうえで、軍隊が直接的に集めるという問題も確実にあったことも明らかにしたのがスマラン事件だ。そのように集めたことだけが問題で、他の慰安婦も同じように集めたという話ではない。


あくまで今回は日本軍慰安所についての状況誤認を指摘するだけにした。おそらく川奈まり子氏は日本政府が国連に“反論”した報道などをそのまま信用してしまったのだろう。
なお、単純な違法化は地下化による悪質化をまねきかねないとか、長期的な健全化に向けた運動が短期的でも致命的な環境悪化をまねきかねないとか、そういう実写ポルノをめぐる論点は私の能力不足で語れない。