田中軍吉中尉が小説家であったということ、そしてその作品内容について、北原尚彦『SF奇書コレクション』で調査されていた。山本弘ブログで知った。
山本弘のSF秘密基地BLOG:北原尚彦『SF奇書コレクション』
該当する連載部分が『WEBミステリーズ!』に掲載されているので、メモしておく。
Webミステリーズ! : 軍人が書いた未来架空戦記SF『血の叫び』は××本だった!――SF奇書天外REACT【第8回】(1/3)[2011年2月]
問題の『血の叫び』は誰にも知られていないどころか、新聞連載されたものだったという。自らが新聞記者に吹聴した百人斬りと違って、有名人ゆえに三百人斬りの刀が報じられたため処刑されたという経緯は、いささか同情の余地を感じないでもない。
しかし「SF」と評されているが、紹介内容を見る限りは、あくまで架空の舞台でありつつも超技術などがとりいれられているわけではないようで、軍事サスペンスやテクノスリラーというジャンルに近い印象を受けた。
なお、この『血の叫び』は新聞連載後に何度かまとめられたものの、発禁になったこともあるらしい。
Webミステリーズ! : 軍人が書いた未来架空戦記SF『血の叫び』は××本だった!――SF奇書天外REACT【第8回】(3/3)[2011年2月]
一番大きな削除部分は、〈時事パンフレット〉版のこのくだり。
彼れにはそれは何の関心も起こさせなかった。
ブルヂョアの為の戦、
プロレタリア搾取の為の戦、
あの勇み立ってゐるのは、プロだ、犠牲もプロだ、
ほくそ笑んでゐるのはブルヂョアだ。
これが、〈つはもの叢書〉版にはなかったのだ。「彼れ」というのは、主人公・立花光のこと。「プロ」というのは「プロフェッショナル」ではなく、前行に出てくる「プロレタリア」のこと。
なるほど、昭和五年の段階ならばともかく、満州事変が起きてしまっている昭和八年の段階では、現実の戦争について言っているようにも読めてしまうだろう。お上が反応するのも理解できる。
もともと連載時にもあった部分なのだが、これも戦争が表現を制約する事例といえるだろうか。軍人の、実在する新兵器はイニシャル表記にとどめた、どちらかというと戦意を高揚しそうな架空小説でこれである。