外務省サイトに「世界が報じた日本」というカテゴリがある。海外主要メディアから日本関連報道を公式に転載したものだ。
[日]リンク:世界が報じた日本
話題になっていない報道記事でも日本語訳しており、興味深い情報も多い。
日本を批判するような記事を掲載することもある。一例として、昨年10月18日に安倍首相が靖国参拝をおこなわなかったことについて論評するニューヨークタイムズ記事を翻訳していた。
海外主要メディアの日本関連報道10月15日~10月22日 | 外務省
原文の直訳であると示す「(ママ)」をつけつつ、「戦争神社」と翻訳しているところが興味深い。
しかし昨年12月24日から今年1月7日にかけて選ばれた記事は、1月6日のデイリー・テレグラフ紙ひとつだけ。
海外主要メディアの日本関連報道(12月24日~1月7日) | 外務省*1
タイトル 中国はアジアのヴォルデモートになるリスクを冒している:日本は平和と民主主義にコミットしており,靖国神社参拝はそれを変えない
もちろん話題は、各国から批判された安倍首相の靖国神社参拝にまつわるもの。内容が参拝を支持しているところまでは予想の範囲内だが。
日中関係が,特に東シナ海を巡って緊張していることは,誰もが知っている。日本は最大限に自制してきている。昨年,中国の軍艦が日本の護衛艦に対して火器管制レーダーを照射した際,それは通常の海軍の実務では戦争行為と見なされ得るものだったが,日本の公船は,事態を一層危険にさらすリスクを冒すのではなく,回避的な行動をとった。中国の公船は,120年間にわたって平和裏に日本の統治下に置かれてきた尖閣諸島周辺の日本領海に繰り返し侵入している。
中国による挑発の更なる証拠は,日本の防空識別圏と重なるように尖閣諸島を対象に含む,中国政府による一方的な「防空識別区」の宣言にみられる。こうした措置にもかかわらず,日本は対話を呼びかけ続けている。過去68年にわたる日本の実績は,日本の民主主義,人権の尊重(政府批判によって逮捕されることはない),平和へのコミットメント(例えば,国連PKOへの多大な貢献),そして途上国を積極的に支援する姿勢を示している。海上自衛隊が公海で近隣国を挑発したことは一度もなく,また我々は国連憲章に示された価値規準を遵守してきた。こうした価値規準は日本に非常に深く根付いており,靖国参拝がそれを打ち消すことはできない。
過去20年間にわたって軍事費を年率10%以上増加させてきた国が,隣国を「軍国主義国家」呼ばわりするのは皮肉である。中国の軍事予算は,現在世界第2位であり,日本の2倍以上である。中国の力あるいは脅しによる現状変更の試みは,日本のみならず,東シナ海及び南シナ海の周辺諸国でも懸念されている。
安倍総理は,国籍にかかわりなく,戦争で亡くなられた全ての人々を慰霊する場所である「鎮霊社」も訪問した。その際,安倍総理が明確に述べたように,日本は自由で民主的な国を創り,過去68年間に亘りひたすらに平和の道を邁進しており,この姿勢を貫くことに一点の曇りもない。このような靖国参拝を軍国主義の再来とは描写できない。
今日,アジアは岐路にある。中国には二つの道が開かれている。一つは対話を探求し,法の支配に従う道である。もう一つの道は,日本は状況をエスカレートさせるようなことはしないが,中国が軍事競争や緊張状態の増大といった悪を解き放つことにより,地域におけるヴォルデモートの役割を演じる道である。答えは明らかに思える。中国は,これまで両国首脳による対話の実施を否定し続けているが,もはや存在しない70年前の「軍国主義」の霊を呼び覚まし続けるのではなく,むしろ両国の対話が前進させることを心から望んでいる。
これまでにないほど珍しい長文で、安倍首相を擁護し、中国の膨張主義を批判する内容。
いや論調はまだしも、翻訳で「呼ばわりするのは皮肉である」などと激しい表現を選んでいることに首をかしげた。そこでよく執筆者の名前を見返してみたら……
執筆者・掲載欄・発信地 林景一在英国日本国大使による寄稿
思いっきり日本の外務省側が出した見解だった。
外務省の主張が掲載を認められたと伝えることが、情報として無意味とまではいわない。しかし、わざわざひとつだけ選んだ自己弁護の寄稿記事とは、いくらなんでも海外からの批判に向きあえてなさすぎるだろう。
*1:英字記事を参考にしつつ、記事翻訳文に改行をくわえた。