法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

各国歴史教科書、を比較したスタンフォード大学研究、を紹介した読売新聞記事、を紹介したZAKZAK記事、を紹介した2ちゃんねるスレッド、をまとめたブログ、というソースロンダリング

米研究機関が「歴史は日本では『ヒストリー』だが韓国は『ファンタジー』中国は『プロパガンダ』」とコメントしたというスレッドを、2ちゃんねるまとめブログ「アルファルファモザイク」が転載していた。
はてなブックマーク - 米研究機関「歴史は日本では『ヒストリー』だが韓国は『ファンタジー』中国は『プロパガンダ』」

 歴史は日本では「ヒストリー」だが、中国では「プロパガンダ」、韓国では「ファンタジー」であるという話がある。
5年前に米スタンフォード大学の研究グループが米国、台湾を加えた各国の歴史教科書を比較研究して得た結論だ(読売新聞2008年12月16日付)。


※下記リンクより、一部抜粋。続きはソースで
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130926/dms1309260733003-n1.htm

情報源として示されている記事は読売新聞……に見せかけて、URLを見ると産経グループのタブロイドサイトZAKZAKだ。
元スレッドを見ると、ZAKZAKが読売新聞を要約紹介していると比較的にわかりやすく引用していた。
米研究機関「歴史は日本では『ヒストリー』だが韓国は『ファンタジー』中国は『プロパガンダ』」

1 : ジャンピングパワーボム(愛知県):2013/09/26(木) 10:31:15.98 id:bRGnOhv7P ?PLT(12001) ポイント特典

 歴史は日本では「ヒストリー」だが、中国では「プロパガンダ」、韓国では「ファンタジー」であるという話がある。
5年前に米スタンフォード大学の研究グループが米国、台湾を加えた各国の歴史教科書を比較研究して得た結論だ(読売新聞2008年12月16日付)。


 それによれば、日本の教科書は最も愛国的記述がなく、非常に平板なスタイルでの事実の羅列で感情的なものがない。
これに対して、中国の教科書は全くのプロパガンダで、共産党イデオロギーに満ちている。04年に改訂されたが、改訂後は中国人の愛国心をうたい、抗日戦争での勇ましい描写が増えた。
南京事件を詳細に記述するなど、日本軍による残虐行為をより強調し、中国人のナショナリズムをあおっている。


 韓国の教科書は特にナショナル・アイデンティティーの形成に強く焦点を当てており、自分たち韓国人に起こったことを詳細かつ念入りに記述している。
日本が自分たちに行ったことだけに関心があり、広島・長崎への原爆投下の記述すらない。それほどまでに自己中心的にしか歴史を見ていない−。


 いちいち思い当たる分析だが、こんなにも、歴史観というより、「歴史」そのものの捉え方が違う隣国と付き合うのはほとほと骨が折れる。


 東京五輪招致成功を決定打とした日本のV字回復を、中国・韓国はこれからも執拗(しつよう)に妨害してくるだろう。その際に必ず持ち出してくるのが歴史問題だ。
「日本は過去にひどいことをした。それを反省していない。軍国主義化している。そんな国にオリンピックを開催する資格はない」。こんな主張が国際的な場で繰り返されるはずだ。


 先のスタンフォード大学の分析は、中国の反日プロパガンダ共産党イデオロギーと結びつけている。
天安門事件後、中国共産党の支配の正統性は、あの残虐な日本軍を中国大陸から追い出したことにあるとし、「愛国教育」という名の反日教育を徹底したことは知られている。


>>2以降へ続く


http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20130926/dms1309260733003-n1.htm

2ちゃんねる側から警告されて以降、エントリの最下部に転載元スレッドを示しているとはいえ、「アルファルファモザイク」の編集方法では情報源の信頼性がわかりにくい。


そこで問題のZAKZAK記事を書いているのが誰かというと、八木秀次氏だった。
【突破する日本】日中韓で異なり過ぎる歴史観 韓国はファンタジー 中国はプロパガンダ (2/2ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK

八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早大法学部卒業。同大学院政治学研究科博士課程中退。国家、教育、歴史などについて保守主義の立場から幅広い言論活動を展開。第2回正論新風賞受賞。現在、高崎経済大学教授、安倍内閣が設置した教育再生実行会議委員、フジテレビジョン番組審議委員、日本教育再生機構理事長。著書に「国民の思想」(産経新聞社)、「日本を愛する者が自覚すべきこと」(PHP研究所)など多数。

皇位継承問題における有識者会議で、天皇家神武天皇から125代にわたる万世一系だと主張し、「遺伝学の見地から」と称して「Y染色体の刻印」を持ち出した、あの八木氏である。
cŽº“T”Í‚ÉŠÖ‚·‚é—LŽ¯ŽÒ‰ï‹c(‘æ6‰ñ)‹cŽ–ŽŸ‘æ*1

なぜ、男系継承を続けていくべきなのかということについてもここで申し述べさせていただきます。
 1つの理由は、125 代一貫して男系継承であった事実の重みでございます。これまで一度の例外もなく、一貫して男系で継承されてきた。そのこと自体、もはや確立した原理というべきではないかと思います。苦労に苦労を重ねながら男系で継承をしてきたということでございます。これを現代人の判断で簡単に変えていいものかという疑問が生じます。
 2番目といたしまして、これも理由として果たして適切なものかどうかは、私はいささか自信がございませんが、遺伝学の見地からも説明が可能だということが指摘されております。私は素人ながらこのようなことを以前から申してまいりましたが、最近になりまして、生物学者の中から、あなたの言っていることは全く正しいという意見をいただくようになっております。
 すなわち、仮に神武天皇を初代といたしますと、初代の性染色体、男の場合XとYのうちのY、Y1 は男系男子でなければ継承ができません。生物学者の中に、その点を「Y染色体の刻印」というふうに表現なさっている方もおられます。
 男系男子であれば、遠縁であっても同じY1 を確実に継承しているということが、お配りをした資料の、遺伝の系図で確認ができます。

このような人物を有識者として呼んだことから、日本の政府はファンタジー歴史観プロパガンダしたい欲望を持っていることがわかる。日本の歴史教科書が比較的に正しいとすれば、それは現行の教科書執筆者と、それを支えた人々の力であろう。


さて、ファンタジー歴史観に生きている八木氏が、正しく読売新聞記事を要約しているとは期待できない。
そこで12月16日の読売新聞記事をさがした。研究にたずさわったピーター・ドウス博士は早稲田大学で教えたことがあるそうで、日本に好意的な記述があっても驚くべきではないとわかる。
スタンフォード大学が行った歴史教科書比較 - どうなっちゃってるの日本!?


http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/c6/ecd7fcf1156e71e0147b1f09a9398905.jpg

記事を読んでいくと、研究内容のニュアンスも異なる。
たしかに韓国や中国の歴史教科書を「奇妙な結果を生む」や「最も愛国主義的に戦争を描写」と批判的に評価しているものの、「ファンタジー」や「プロパガンダ」という表現は用いられていない。あくまで愛国心を賞揚するための欠落があると指摘しているだけで、不正確な記述がされているとは批判していない。
韓国と中国だけを批判しているわけですらなく、米国の教科書に対して「戦勝に酔ったような叙述がある」と批判するくだりもある。そして「各国・地域の教育制度は世界史より自国史に優先権を置いている。その結果、過去に対する見方は限定的なものとなっている」と普遍的な傾向を見いだしている。
日本は抑制されていると高評価しているが、もちろん特筆して「ヒストリー」と書いているわけでもない。抑制的な記述になった理由について、「驚くべきではない。結局のところ、日本は戦争に負けたのだ」とも明言している。
そして記事の結論部分を見ると、「戦争が日本人に与えた教訓は、軍事力の行使は道義的に正しくはなく、賢明でもないということだった」「戦争で、中国の恥辱の世紀と米国の孤立主義は終わったかもしれないが、国の誇りは軍事力によってしか保たれないという日本人の幻想も終わったのである」とある。むしろ全体としては2ちゃんねる界隈から反発されそうな思想でつらぬかれている。


読売新聞へ元米紙特派員がよせた研究趣旨の詳細版は、下記ページで日本語訳とともに掲載されている。多くの表現が共通しており、読売新聞が研究者の意図を正確に要約していたことがうかがえる。しかし残念ながら、日本国内の動きに釘をさすくだりが欠落していた。
分断された記憶:歴史教科書とアジアの戦争 | nippon.com

ドウスが指摘しているように、日本の教科書に戦争をたたえるような記述がない最大の理由は、「日本が戦争に負けた」からである。(※6)同じように重要なのは、どの日本の教科書にも、戦後の日本が戦争をどう解釈するかについてのコンセンサスが見られない点だ。歴史についての意見対立の幅が小さい中国、韓国、米国とは異なり、日本では今も戦争の記憶の形成をめぐる戦いが続いている。日本がアジア太平洋地域で侵略戦争を行ったとする国民の多数派の認識に、今も異議を唱える勢力が存在するのだ。それでも、日本の一般的な戦争記述は、欧米帝国主義に抵抗する自由の戦いではなく、決して繰り返してはならない軍国主義の破滅的な戦争として描かれている。

この研究において最も批判されているのは、八木氏や2ちゃんねるまとめブログのような存在ではないだろうか。八木氏を重用しつづけて、先にも太平洋戦争が侵略戦争だったことを否認した安倍晋三首相も、もちろん批判されるべき対象だろう。
私は、日本がアジア太平洋地域で侵略戦争を行ったとする認識が多数派であることを願うし、それに異議を唱える勢力に抗いたいと思う。

*1:引用時、「 2番目」の直前に改行をくわえた。議事録中にある「お配りした資料」は、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kousitu/dai6/6siryou2.pdfだと思われる。