法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太vs武蔵 巌流島ちょっと前の戦い

宮本武蔵にあこがれたジャイアンが、剣道をはじめたという。それをきっかけに武蔵が巌流島に遅刻した謎が話題になった時、寝坊しただけじゃないかとのび太はいってしまう。怒ったジャイアンは、のび太へ果たし状をつきつけ、空き地で待ちかまえる。
ジャイアンと決闘する恐怖を乗りこえるため、のび太は秘密道具「電光丸」を手にし、宮本武蔵へ会いに行くこととなった。しかしタイムマシンを誤動作させてしまい、悪党がはびこる宿場町に出てしまう。「電光丸」の能力で悪党は撃退したが、武者修行中の青年タケゾウから弟子入りを志願されてしまい……


今回は原作短編「名刀電光丸」*1にアレンジを加え、30分の放送時間いっぱいを使った戦国時代劇アニメが展開。
いつものSPらしく脚本は水野宗徳で、絵コンテは今井一暁と善聡一郎の連名。作画監督は小野慎哉が担当していた。


前半までは、ほぼ原作に忠実なアニメ化。資料や伝説から引いたエピソードを増やすことで、時代劇らしさも増していた。予告映像で正体を明かしていたとはいえ、タケゾウという名前が伏線になっているところも時代劇らしいくすぐりになっている。
ひとつ不安だったのは、しずちゃんもタイムスリップに同行したこと。予告映像から判断して、しずちゃん宮本武蔵ととりあうアニメオリジナル展開になりそうだと思い、それではドラマの目的が散漫になりかねないと気がかりだった。
しずちゃんにタケゾウが求婚しかける場面で、さらに不安が増していく。その直後にしずちゃんが人質にされてしまう展開も、廃寺で多人数と戦うシチュエーションは面白いのに、剣閃の残像を表現した一瞬で終わってしまう。


しかし後半、宮本武蔵と明らかになった青年は、原作と違って電光丸を持っていかない。そして求婚しかけたタケゾウの言葉が気になったこともあり、ドラえもんは巌流島の決闘を見にいく。
そこで再会したタケゾウは、立派な剣士になっていた。求婚の思いも断ち切り、佐々木小次郎よりも強いはずの師匠へいどむ。のび太も電光丸で受けてたつ。
前半でためていた作画リソースをここで投入。火花が飛びちる迫真のつばぜりあいが展開され、アクションアニメとしての面白味が充分ある。その戦いのさなか、のび太とタケゾウの、しずちゃんへの押さえきれない思いがわきあがるが、それも心を強くしたいという目的へ繋がっており、見ていて違和感はなかった。最終的にタケゾウは負けたが、すがすがしい気分で巌流島へと向かう。
なぜ遅刻したのかという謎が、ジャイアンを怒らせるきっかけだけで終わらず、ちゃんとタイムスリップSFらしく解明された。サブタイトルの「巌流島ちょっと前」の意味が、ここではっきりした。しかも二刀を折られたタケゾウが船の櫂を武器にするという、歴史ネタが好きな視聴者への予想外なくすぐりまで、さりげなく描いている。


少年の成長劇に見せて、あくまで原作通りの肩透かしオチにつなげるのも、30分の娯楽中編として悪くないバランス。地味に季節ネタでもある。
歴史SFとして原作よりも緻密に構成されていて、現代人と過去人の両方に花をもたせる結末も後味良く、今回は満足した。


なお、昨日に情報公開された長編3DCG映画の情報はなし。しかしTVアニメ公式サイトでは詳細な情報が書かれているので、来月のSP番組あたりで紹介されるかもしれない。
http://www.tv-asahi.co.jp/doraemon/news/0049/index.html
ちなみに3DCGのドラえもんといえば、映画シリーズの中期から原作者が亡くなられるまで、OPに使われていた。ただ、ほとんど個人スタッフが制作を担当していたこともあってか、遺作となった『のび太のねじ巻き都市冒険記』のCGクオリティに対して映画雑誌『キネマ旬報』のレビューで酷評されていたことが印象に残っている。

*1:こちらのイセ氏のイラストキャプションで、来年の映画で活躍する秘密道具ということを思い出した。http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=39756524