法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

稲田朋美特命大臣が、慰安所制度を合法だったと重ねて主張

「この間、ゴスロリ(ゴシックロリータ)のルーツは十二ひとえにあると聞きました」*1という与太を飛ばしていた時、サブカルチャー愛好者として正直にいえば、このような政治家に近づかれても困るだけと思った。しかし、その程度の与太は、まだカルチャー内の話題にとどまっていただけ平和だったのだ。
稲田行革相、慰安婦「戦時中は合法」 :日本経済新聞

稲田朋美行政改革相は24日の閣議後の記者会見で、旧日本軍の従軍慰安婦に関して「慰安婦制度自体が悲しいことだが、戦時中は合法であったのもまた事実だ」と語った。同時に「今であろうと戦時中であろうと女性に対する重大な人権侵害であることに変わりはない」と述べた。

先日に橋下徹大阪市長慰安婦制度擁護発言を批判した時は、過去の産経新聞紙上の発言と整合性が取れているのかと首をかしげた*2。しかし内実を見ると、当時の視点では悪くなかったという橋下主張と、稲田主張の認識は同根だったのだ。
注意しておくと、法律を左右できる国家機関の行為は、単に合法であるというだけでは正当化できない。重大な人権侵害を法律で裁けないような状態にしていたならば、それもまた国家機関の立法に欠陥があったことの証明になる。
さらに従軍慰安婦問題の研究において、判明していったのは国家の関与度合いをはじめとした事実関係だけではない。どれだけ「当時」でも法律にふれた状態であったか、どれほど「当時」でも外聞をはばかる制度だったのか*3、そうした枠組みも解き明かされている。


記者会見で質問したのは「インディペンデント・ウェブ・ジャーナル」の記者らしい。その質疑の書き起こしを読むと、ちゃんと昨年の産経新聞紙上の稲田発言に記者が言及していた。
稲田大臣、従軍慰安婦制度について「戦時中、合法であったことは事実」 ~稲田朋美行政改革担当大臣 定例会見 | IWJ Independent Web Journal*4

 大臣は以前の定例会見で『慰安婦制度は女性の人権に対する大変な侵害だと思っております』と発言されていらっしゃいますが、他方で、大臣は昨年8月の産経新聞で、『慰安婦を強制連行した事実はなく、当時は慰安婦業は合法だった』、という旨の論説文を寄稿してもいらっしゃいます。

先日の会見での『慰安婦制度は女性の人権に対する大変な侵害だ』というご発言は、慰安婦の強制連行はやはりなかったという認識に基づいたうえでのご発言だったのか、あわせて大臣のご見解をおうかがいしたいと思います。

上記質問に対する回答は下記の通り。

前回私が申し上げた、『慰安婦制度が女性に対する重大な人権侵害である』ということは、現在であれ、たとえ戦時中であれ、同じだと思います。ただ、戦時中は、慰安婦制度が、悲しいことではあるけれども合法であったということも、また事実であると思います

合法であったという言い方をすると、人権侵害ではないと誤解されると思うので、今であろうとも、戦時中であろうとも、女性の人権に対する重大な侵害であることに変わりはないと私は思います

どちらかといえば、過去発言との整合性を記者から追求されて、中途半端に整合性をたもとうとして内実を露呈してしまったという感じを受ける。


さて、稲田大臣の主張が橋下市長の主張と大差ないことが判明したとして、整合性はたもてているのだろうか。
そこで昨年8月の産経記事を読むと、当時合法でも人権侵害ではあった、と主張していたわけではないとわかる。河野談話で謝ったという過去を批判への反論として持ち出しているように解釈できるところもあるが、全体として批判への反発でつらぬかれている。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120831/plc12083103290002-n3.htm

慰安婦」問題については、日本の政府や軍が強制連行した事実はない、と明確に主張しなければならない。問題の核心にある「強制連行」がなかったのだから、謝罪も補償も必要ではない。当時は「慰安婦」業は合法だった。

 それにもかかわらず「強制性」を認めて謝った河野談話を否定し、韓国や米国で宣伝されているような、朝鮮半島若い女性を多数、強制連行して慰安所で性奴隷にしたといった嘘でわが国の名誉を毀損することはやめていただきたいと断固、抗議すべきである。

まず、未成年の慰安婦や前借金による拘束といった当時でも違法だった側面にふれず、「強制連行」だけに焦点をあてているところが誤りだ。慰安婦制度の何が国内外から批判されているのか理解できていない。
そして前後の文脈で判断する限り、当時に「合法」だったという主張は、「補償」だけでなく「謝罪」をも否定する根拠として用いられている。補償の形態によっては当時に合法であったか違法であったかが重視される場合もあるだろうが*5、人権侵害という認識を持っているなら謝罪を不必要と考えることは出来ないだろう。

*1:http://www.asahi.com/politics/update/0425/TKY201304250324.html

*2:ktaesik氏が齟齬を指摘している。http://d.hatena.ne.jp/ktaesik/20130516

*3:たとえば永井和論文で、軍関与を示す資料として報じられた副官通牒が、外聞をはばかるため軍と警察が連携するための指示だったことが指摘されている。http://nagaikazu.la.coocan.jp/works/guniansyo.html

*4:太字強調および文中リンクは原文ママ

*5:ただし、当時に合法であったことは補償を全否定する根拠にはならない。立法による救済といった方策も存在するし、法律に抜けがあって加害者が裁かれない場合でも被害者へ補償される事例は存在する。