法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『劇場版 エリア88』

 若手パイロット風間真は、航空会社の令嬢とのつきあいも順調で、順風満帆で帰国しようとしていた。しかし親しいパイロットの神崎悟と酒を飲みにいった時、眠りこんでしまい連行されてしまう。それは親友と思っていた神崎の策略であり、風間は中東の王国の傭兵部隊で強制的に働かされることになった……


 スタジオぴえろで活躍していた鳥海永行監督による長編アニメ。新谷かおるの空軍外人部隊漫画の序盤を、さまざまなアレンジをほどこして1985年にアニメ化して劇場公開した。

 もとは全3巻で販売されたOVAの1巻と2巻で、それを劇場上映のため再編集。DVDはこの劇場版と第3巻というふたつのパッケージに分割されて販売されている。


 OVAそのままのスタンダードサイズで作画スタイルも古いが、空中戦描写は充実。長回しの背景動画や大判の背景美術で空間を広く切りとって、アナログ技術では手間がかかるレイヤーごとの拡大縮小比率を変える手法もつかい、空間の奥行き表現をがんばっている。
 他にも各国から集めた個性的な戦闘機のメカデザインをきちんと起こしたり、機銃掃射で多数の薬莢が排出される描写は押井守と共同で監督した『ダロス』を思わせたりと*1、長編アニメとしての見ごたえはあった。


 もとのOVAが各巻50分ほどあるので、映画らしい厚みある時間経過も感じられた。どこで分割されているか見当はつくが、おそらく第1巻の結末の決意からそのまま第2巻が導入されているので違和感がない。
 ただし、主人公を外人部隊へ送りこむ陰謀をおこなったライバルと主人公をさがすヒロインのドラマが第2巻の前半部分で終わって、敵外人部隊との激闘で第2巻後半をもりあげてから主人公の未来が閉ざされて映画が終わるのは、あまり美しい構成とは思えない。おそらくOVAで意図した構成なら、第1巻と第2巻で主人公の悲劇がリフレインして、最終第3巻につづくかたちだったのだろう。
 しかし第1巻と第2巻をあわせて物語を完結させるなら、たとえば第2巻の前半と後半を入れかえるように編集しても良かったのではないだろうか。主人公を追いやった男と主人公が失った女という物語の導入に決着をつけるラストになるし、人を殺したくないと願いつづけた主人公が苦味を感じながらも人命を救って終わることでテーマにも一応の答えが出せる気がする。