法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』

 巨大な鏡のある、謎の小部屋にいるキュアフローラ。その鏡を見る彼女に、オバケがイタズラをはじめる……


 2015年のアニメ映画。ハロウィンをモチーフとして、『プリキュア』シリーズ初のオムニバス映画としてつくられた。

 オムニバスとして評価が難しい。方向性が異なる実験的な3DCGアニメの短編と中編に、手描きアニメの長編がサンドイッチされているのだが、長編と中編の物語としての差別化が足りない。
 長編も中編も、王国が敵の男ひとりによってディストピア化して、ゲストヒロインの姫と主人公キュアフローラが王国をもとにもどすため走りまわる。それを他のプリキュアが助けていくプロットがまったく同じ。
 一応、長編の姫はとらわれながら凛として涙を見せず、中編の姫は積極的に走りまわりながら幼い弱さを見せるという差別化はできている。しかし敵の男が支配のために支配する悪玉でしかなく、プリキュアと思想をぶつけあうようなキャラクターの奥行きがない。王国を敵から救うという簡素な印象しか残らない。
 オムニバスとして家族というテーマで統一する意味もわかるのだが、ハロウィンでパンプキンというモチーフで3作品が統一されているのに、物語まで同じ構造にしては飽きてしまう。
 それでも短編は台詞を廃してモーションだけで楽しませてくれるし、中編は良くも悪くもアニメミライ的な完成度はあるのだが、長編は一昔前のイベント優先劇場版のようにドラマが弱い。敵の手でパンプキン王国へ送りこまれながら普通にプリンセス選考会に参加する主人公たちに物語の都合を感じざるをえないし*1、敵にとらわれる段取りとして王女公募イベントをひとりひとり消化していく展開も単調。王女を一般公募する共和制的なイベントを敵の陰謀あつかいにして、血統で王女を選ぶことが正当であるかのような構図になっていることも首をかしげた。
 国民が存在せず妖精ばかりで、王が自らカボチャ農業を研究しているのであれば、そもそも本来は王国ではなかったという設定にしても良かったのではないだろうか。パンプキン王国が異世界なのか架空国家なのかよくわからない問題も緩和される。


 念のため、まったく楽しめなかったわけでもない。映像作品としては技術が高度かつ多様で見どころがある。
 短編はSD体型にドールのような質感で外国のハイレベル作品にも負けていない。キュアフローラとオバケ集団の変身対決を基本的に一室だけでおこなうが、鏡のように真似をしながら差異がふくらんでいくプリミティブな面白味がある。わずかな出番しかない他のプリキュアもしっかりモデルをつくって動かして、画面に豊かさと余裕が感じられる。
 長編は座古明史演出らしくカット単位シーン単位では映像にこだわっていて、冒頭のアクションも終盤の二段階にわたる決戦も空間をダイナミックにつかって見どころいっぱい。『Go!プリンセスプリキュア』は第1話*2からTV版のアクション作画も定期的に良かったのだが、劇場版も冒頭でのカフェの椅子を背景動画で動かしたり空中に飛びあがってのアクションが、劇場作品ならではの潤沢な制作リソースを感じさせた。終盤に敵が怪物化する時の火炎エフェクトと大地を破壊していく暴れぶりも作画アニメとして充実していた。王女公募イベントも、実写を参考にしたという海藤みなみのバレエや*3、行程ひとつひとつをていねいに作画した春野はるかの製菓はよくできていた。言葉をしゃべれない妖精ゆえに身振り手振りでコミュニケーションする描写も多いし、妖精が敵の尖兵の動力になっている映像的なギミックも面白い。
 中編は、シリーズのEDで恒例となった濃厚な絵柄の3DCGを、TVアニメ1話分つくりきっただけでも感心した。不思議にゆがんだ街並みを立体的に逃げ回るアクションもそれだけで楽しい。身長が少し違う少女ふたりが大勢の怪人から追われていく。単調なリピートではなく動きに個性があるし、屋根のような斜面やロープをつたうようなシチュエーションの多様性があって飽きさせない。敵とのアクションは手描き作画のようなエフェクトをかさねたりして、さらに映像の変化をつける。このビジュアルは外国の作品では見られないような個性があり、いずれ良い企画で長編として完成させることができれば世界的に評価されるかもしれない。

*1:一応、紅城トワが王国の異常にかんづいている描写は入っているが、そもそも普通の世界からファンタジーな王国へやってきた不思議をいぶかるべきだろう。

*2:『Go!プリンセスプリキュア』第1話 私がプリンセス?キュアフローラ誕生!! - 法華狼の日記

*3:敵が等身大の時点でキュアマーメイドがバレエを意識したアクションをしているのも面白い。