法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『小説家の作り方』野崎まど著

売れない駆け出しの小説家に、はじめてとどいたファンレター。そのファンは、世界一の面白い小説のアイデアがあるが、書くことができないという。指南をたのむファンに小説家が会ってみると、そこには若く美しい女性がいたのだが……


キャラクター描写だけ巧いという主人公小説家の特徴と、日常におりまぜた伏線だけで、ジャンルそのものを意外な方向へ転がしていった「ノベルミステリー」。
作中作の小説が全く登場しないのは、この種のメタ小説では珍しい。かわりにライトノベル的な挿絵が全くないのに、ライトノベルに自己言及する場面が野崎まど作品としては珍しく多い。


現実を舞台として超越的な目標に立て、そこに伏線をおりまぜながら超常的な設定を導入し、それでいて物語の主題としては最初の目標にきっちりオチをつける。著者のプロットは同じパターンが多いので、どこかで真相の見当がつくのだが、伏線はきっちり入っていて、物語をきちんと閉じているから不満をおぼえることはない。
短い頁数でどんでん返しを入れているから、どこか驚くポイントも必ずある。今作では小説とは何かということと、小説ではなく小説家を作るというタイトルにばかり注意が向いていて、小説家志望者の正体という根幹は全く予想できなかった。まさか物語がはじまった時点で「小説家」がすでにほとんど完成していたとは。