革命と反動でゆれる19世紀の欧州。セントヘレナ島で死んだはずのナポレオン皇帝が、ライン川近くの塔に幽閉されているという噂が流れていた。パリに住む祖父に会うため大西洋を越えてきた少女コリンヌは、自身が孫であることを認めさせるため、噂の真実を確かめる旅に出る。剣士と海賊と小説家が少女に協力する一方で、四人組の悪漢が行く手をはばもうと暗躍する。
カナダ先住民族の血をひく少女が、魅力あふれる三人の大人とくりひろげる冒険譚。
講談社の児童向けレーベル「ミステリーランド」の初期配本として、2005年に出版された。作者はシリーズを長期中断させることで知られているが*1、この作品は一作であますことなく完結しており、問題なく楽しめる。児童向けゆえの肩のこらなさが、良い意味で出ているのだろう。
物語は、自由や人権のために戦った偉人が、かつて一つの目標のために集って冒険したという仮想に基づいている。展開が単純なかわりに、歴史の薀蓄はたっぷりと詰め込まれている。同時代の様々な事件や思想が物語の背景となり、当時でしか成立しない陰謀がはりめぐらされており、謎めいた娯楽活劇が味わえた。描かれた偉人達がどこまで史実にそっているか*2、あるいは伝説を引用しているかは知らないが、有名な事件や人物との関係性が語られることで、人物と社会の姿がともに物語から浮かび上がっていく。物語の構図がアレクサンドル=デュマの作品を下敷きにしており、つまり作中においては過去の冒険に基づいて作品が書かれた形式になっている趣向も楽しい。
最終的に登場人物の行動原理は納得がいく形におさまり、きちんと伏線も回収された。ただし「ミステリー」としては、どんでん返しの場面で明らかにアンフェアな叙述がされていることが難。本格推理と呼んでいい作品が集まっているレーベルなのだから、フェアネスを守ってほしかった。
個人的に印象深かったのが、少女が剣士へ戦いの技術を教えてほしいとたのむ場面。剣を渡された少女は、剣士から「よし、それでマドモアゼルは、自分を殺す権利を相手にあたえたわけだ。」*3といわれて、剣を喉元に突きつけられる。たとえ自らを守るためであっても武器を持つとはどういうことか、端的に皮肉るやりとりとして記憶に残った*4。