法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バットマン ゴッサムナイト』

映画『バットマン ビギンズ』と映画『ダークナイト』のミッシングリンクを描いたOVA。『アニマトリックス』で成功した、異なる映像作家や制作会社が各話を担当するオムニバス方式。くわえて、脚本はハリウッド側が提供し、全体を通して見ると一繋がりの物語になるという趣向がある。
ただ、もともとバットマンという同一の主人公を中心とした物語であるため、関連性があることに意外性が感じられない。全話が手描き作画で制作されている上に、一繋がりの物語という制約があるためか、あまり映像のバラエティも感じられなかった。


第1話「俺たちのスゴい話」西見祥示郎監督。過去にアニメ映画『バットマン・ザ・フューチャー 蘇ったジョーカー』*1作画監督を手がけただけあってか、最もカートゥーンらしさがある。
それでいて最も手描きの描線を活かした映像が面白く、目撃者一人一人が異なるバットマン像を語っていく構成も楽しい。オムニバス内オムニバスという構造の面白さもある。


第2話「クロスファイアは東出太監督。ミッシングリンクを描いた作品ながら、ちょっと実写映画との間に設定の矛盾があるらしい。刑事バディ物バットマンが関わるという、これも間接的にバットマン像を描いた作品。
背景動画や銃撃戦を多用し、もっともハリウッド映画のアニメ翻案というイメージにそった映像だった。


第3話「フィールドテスト」はビィートレイン制作で、モリヲカヒロシ監督。かなりさっぱりした絵柄で、バットマンの素顔も若々しい。外国スタッフによるオーディオコメントでも「ガッチャマン」のようだと指摘されている。
しかし、バットマンが迷いを持ちつつも、善悪の困難な葛藤にまでは直面しない、そういう若いヒーロー像を描いた物語内容には合っている。


第4話「闇の中で」は青木康浩監督。地下世界でのアクションが物量たっぷりに描かれる。既存の敵キャラクターも多く登場。
アメコミ調の日本アニメとして完成度が高いし、最もバットマンらしい満足感もある。


第5話「克服できない痛み」窪岡俊之監督で、制作は第1話と同じくSTUDIO 4℃。この時の関係で、『ベルセルク』のアニメ映画化も窪岡俊之監督で行われることになったという*2。俯瞰のスローモーションで見せるアクションなど、演出に通じる面が散見された。
自身のふるう暴力の意味に悩む主人公が、世界を放浪した修行時代を回想する。ただ神秘的な修行をするだけでなく、そこでの師匠が女性というところから、現地における性差別なども描かれ、現実と地続きな問題もある地域としてインドという舞台が立体感を持つ。師匠の複雑な立ち位置により、わずか10分ほどの尺で『バットマン ビギンズ』に通じる弟子としての葛藤も描かれ、社会派ドラマらしい趣も感じられた。
実景を引用した風景のリアリティ、影にたよらないキャラクター作画と、現代の日本アニメが理想とする映像水準に最も近い作品だと思う。


第6話「デッドショット」はJong-Sik Nam監督だが、DVDパッケージには明記されず。ワーナーの公式ページでも「制作:マッドハウス」としか記載されていない*3
前話までとは一転して絵柄は陰影が濃く、顔面の凹凸も強調されている。1カットの動きにメリハリをつけるのではなく、カットごとにメリとハリを別ける演出など、映像全体で川尻善昭監督を思わせる。マッドハウス関係の演出家は、川尻善昭監督の演出技法に影響が受けていると感じる例が多いが……ともかく、悪い内容ではなかった。
物語についていうと、一人の強敵と対峙するシンプルなプロットを通して、前話まで描かれた問題意識をまとめていく。最後には全ての敵を倒して一定の爽快感を出すという、娯楽作品として要求されることも同時にこなしていた。


各話の完成度は高く、どれを見ても値段以上の楽しみは味わえる。しかし、面白い趣向とオムニバス形式が互いの良さをつぶしていたという残念な印象もあった。
絵柄が他話と異なる第3話が、実は二代目バットマンのエピソードだったと全話を見て初めてわかるような仕掛けを入れるか。それとも『アニマトリックス』や『Halo Legends』のように、3DCGで制作したエピソードを入れるか。そうして企画レベルでバラエティを意図しておけば、よりオムニバスとして楽しめたかもしれない。