法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スマイルプリキュア!』第18話 なおの想い!バトンがつなぐみんなの絆!!

山田由香脚本、池田洋子コンテ回。
もの凄く評価に困る回だった。表層的な「道徳」を描いた物語のようであると同時に、「絆」という文字にふくまれた危険をあらわにした風刺劇のようでもある。
単純に解釈すれば、プリキュアの仲間とリレーして、クラスの目も変えさせることができて、負けたけど絆ができて良かったね、という物語ではある。だが、この展開を成立させるために必要以上の紆余曲折を描き*1、奇妙なゆがみも表現されている。


まず、誰もが拒否する中で、いったんは迷いながらリレー選手として立候補した*2緑川なお。クラスメイトが立候補を歓迎したのは、単純に緑川が速いから。しかし緑川は、他のリレー選手にプリキュアの仲間を推薦する。緑川はクラス全体の勝利を目指していないし*3、他のクラスメイトにはプリキュア時の仲間ほどの絆を感じていない。この時点で、クラス内で色々な行き違いが生まれている。
プリキュア内でも、行き違いがある。特に走ることが苦手だった黄瀬は辞退しようとするのだが、実質的に緑川に押し切られる。しかも、クラスメイトが自分の走りを求めていないことを、黄瀬は立ち聞きしてしまう。運動が苦手なのに、仲間から推薦され、結果として他のクラスメイトから存在そのものを否定される。学校のクラスという集まりが、人工的な絆でしかないということが明瞭に描かれた。
そして敵の攻撃と退散をさしはさみながら*4、競技を順調に消化していって、最後にリレーが始まる。クラスの視線が気になる黄瀬も奮闘し、その姿を通してかクラスメイトも声援を送るようになる。しかし、単なる「絆」に終わらず、その場の空気に乗っただけという調子のよさも感じられる。
最終走者戦では、緑川ただ一人の奮闘で最下位から逆転していく。ただ一人の活躍で逆転する展開も、もちろん先の走者が手を抜かなかったおかげではあろうが、しょせんは実力勝負という読み取りができる。
しかし最後の最後で緑川が転倒し、リレーは最下位に終わった。1位になるプリキュアがいない作品らしい結末ではある。そして勝負より絆が大切だったはずの緑川は泣き出してしまう……


結末の涙は、物語の枠にとどまらない情動を描こうとしたのならば、印象的で素晴らしい表現だと思う。しかし物語としては、あまりに多義的な解釈を許し、おさまりが悪いとも感じた。
皮肉の意図がないならば、もっと自然にお膳立てするべきだった。皮肉の意図があるならば、それと視聴者が読み取れるサインを、もっといえば大人の視点*5を物語に入れても良かったと思う。

*1:たとえば、運動が苦手な黄瀬が他の競技に出なかったため、強制的にリレー選手とならざるをえなくなり、それをフォローするためプリキュアの仲間達が立候補したという流れなどもできたはず。

*2:コメント欄などで指摘されて訂正。立候補にいたるまで入り組んだキャラクターの気分が見え隠れしていることについては、コメント欄を参照のこと。

*3:ここは勝負には興味がないと緑川の台詞で明言されている。ただし、本当に勝敗全てに興味がないかというと、結末の描写で微妙に違うといえるだろう。

*4:この場面でもっと「絆」について多角的に語っていれば、道徳にせよ風刺にせよ、より納得しやすい形に落とし込めただろうと思う。

*5:ここは立ち位置が大人という意味であって、敵キャラクターや子供キャラクターが担当してもかまわない。