法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

話数単位で選ぶ、2011年TVアニメ10選

昨年以上に参加サイトが多いが、今年も末席に加えさせてもらいたい。
「話数単位で選ぶ、2011年TVアニメ10選」参加サイト一覧: 新米小僧の見習日記
提唱者のkarimikarimi氏によるルールは下記のとおり。
話数単位で選ぶ、2011年TVアニメ10 karimikarimi選 - karimikarimi

・2011年1月1日〜12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。

・1作品につきなるべく上限1話。

・思いつき順。順位は付けない。

ちなみに私の昨年10選は下記エントリのとおり。
話数単位で選ぶ、2010年TVアニメ10 - 法華狼の日記

ドラえもん』雲に乗って学校へ/夜行列車はぼくの家(相内美生/大野木寛脚本、八鍬新之介コンテ演出、をがわいちろを/田中薫作画監督

八鍬新之介コンテ回に注目するようになった回。単純に演出がいいだけでなく、ひさしぶりに情緒性のある『ドラえもん』アニメを見られた嬉しさもあった。特に後半はただ一夜の旅をするだけなのに、見ていて飽きなかった。
それぞれ異なる短編をアニメ化しつつ、同じ演出家が手がけることで世界観の連続性を持たせたところも面白い趣向だった。
『ドラえもん』雲に乗って学校へ/夜行列車はぼくの家 - 法華狼の日記

バトルスピリッツ ブレイヴ』第48話 ダンvs魔ゐ ダブルブレイヴvsダブルノヴァ(山田由香脚本、渡辺正樹コンテ演出、石田智子作画監督

少年を戦いの場へ引き込みながら、髪をいじるばかりで自身の居場所に悩んでいた少女。敵側にまわりつつ、その本心を吐露することで一気に過去の鬱屈をふきはらう。その吐露された心情を正面から受け止めつつ叩きつぶしたことで、少年の覚悟の重さも際立った。
一歩間違えれば単なる古臭い男女観を見せかねないところ、少女の心情を厚く熱く見せて独立した人格で動いていると感じさせるだけの内実をともなわせた。
『バトルスピリッツ ブレイヴ』第48話 ダンvs魔ゐ ダブルブレイヴvsダブルノヴァ - 法華狼の日記
濃密な作画や初回を模倣した演出も映像の力で支えていた。

TIGER & BUNNY』#16 Truth lies at the bottom of a well.(真実は井戸の中にある)

今年の中盤で話題を独占した作品において、最も衝撃を受けた回だった。
バディ物の年長側も憧れる偉大なヒーローが、実は虚像にすぎなかったという真相開示が、ヒーローの活躍がTVショーのためという作品の根幹設定と深く結びついて、主人公の存在理由をゆるがす。返す刀で暗躍していたダークヒーローの由来も明らかとなり、ヒーローとは何かという問いかけを掘り下げる……かに思われた。
残念ながらヒーローのアイデンティティを深く掘り下げたのはこの回が最後。苦悩する主人公は相棒への告白を引きのばし、停滞した物語は浅くあわただしくまとめられた。それでも、この回で描かれたことが作中でなかったことにされたわけではないし、掘り下げた深さは改めて評価しておきたい。
『TIGER & BUNNY』#16 Truth lies at the bottom of a well.(真実は井戸の中にある) - 法華狼の日記

STAR DRIVER 輝きのタクト』最終話 僕たちのアプリボワゼ(榎戸洋司脚本、村木靖コンテ、五十嵐卓哉コンテ演出、伊藤嘉之キャラ作画監督、阿部慎吾/大塚健メカ作画監督

あえていおう。『魔法少女まどか☆マギカ』の最終回は、放映の一週間以上前に超克されていたのだ、と。
執着、未練、犠牲、制約、それら全ての閉塞感を打ち砕く主人公、そのひたむきでまっすぐな姿が美しかった。その一撃は神的暴力と呼ぶにふさわしい。
『STAR DRIVER 輝きのタクト』最終話 僕たちのアプリボワゼ - 法華狼の日記

UN-GO』第5話 「幻の像」 坂口安吾「明治開化 安吾捕物帖 “幻の塔”」より(會川昇脚本、木村隆一コンテ演出、武本大介/菅野宏紀作画監督

自己犠牲した若者を讃える像を、石原慎太郎を思わせる有力者が作らせて、群集へ公開しようとする。その像に皮肉がこめられていると読み取った探偵だが、その像の内部から二人の死者が転がり出た……
必ず一つは真実をいわせることができるというSF設定によって探偵の推理は誤っていることが判明する。しかしどこが誤りなのかはわからない。現在の本格推理がしばしば直面する「後期クイーン問題」が、作品独自のSF設定をきっかけにして探偵に立ちふさがる。
目のくもりをぬぐった先に見えた真相は、謎めいた行動の卑小な動機。単純な真相を隠すように探偵の目をくもらせていた原因は、表現というものへの探偵自身の期待と希望。美しく自己犠牲した死者を代弁する探偵自身もまた、死者の尊厳を自らの思想を裏づける材料にしようとしていたのだ。
その自己批判會川昇という脚本家、作品自体、そして社会批判を読み取る視聴者をも射程におさめる。全てを暴力的に暴き出した探偵は、結末で銃を撃つしぐさをした。その幻の銃口はカメラへ向けられていたのだ。
ちなみに、この回が探偵の無謬性へ懐疑を投げかける作りになったのは、脚本制作中に起きた東日本大震災のためだという。
ASCII.jp:人は必ずブレるもの 「UN-GO」脚本・會川昇氏が語る【前編】 (2/4)|渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」

震災の後に書いた2話と5話、そして劇場で上映した「UN-GO episode:0 因果論」は、新十郎自身の弱さとか内省的なもの、つまり、自分自身も告発者であることは宿命づけられているけど、本当にそれが正しいのかどうかは自信がない。

 「むしろ真実を暴くことが人を悲しませちゃうことになるんじゃないの」、と彼自身が分かっている。そんなふうに変わったんです。

この作品のこの回で泣けるのは、私だけかもしれない。だが、アニメーションとドキュメンタリーを表現として好む全ての人に見てほしい。それだけの価値はある。ミステリとしてトリックがシンプルかつ一話完結なので視聴しやすいはずだ。

ラストエグザイル-銀翼のファム-』#10 Illegal move(神山修一脚本、大原実コンテ、吉田徹演出、戸倉紀元作画監督

敵が本拠地の奥深くまで侵入してくる回に外れなし。
各スタジオが別会社に分割され、その名義上の別会社からスタッフを呼んでいるくらいなのに、上場停止前より作品に安定感がある。結果として、どの回にも捨てがたい良さがあるのだが、特に作画アニメらしいアクションが楽しめたこの回を推しておく。
『ラストエグザイル-銀翼のファム-』#10 Illegal move - 法華狼の日記

『SHIN-MEN』カンのヒミツ(きむらひでふみ脚本、湯浅政明コンテ、ムトウユージ演出、針金屋英郎作画監督

クレヨンしんちゃん』のアニメオリジナルスピンオフヒーロー。湯浅政明監督が全面的に映像を形作っていた初期は、5人のヒーローが別々に行動するだけでなく互いの正体も知らず、ヒーロー同士で淡い恋愛劇が描かれたりもした。アニメ映像の素晴らしさだけでなく、集団ヒーロー物として独特の立ち位置にあったことを思い出しつつ、この回を推そう。
『クレヨンしんちゃん』もえPの誕生日だゾ/『SHIN-MEN』カンのヒミツ - 法華狼の日記
ちなみに最近の『SHIN-MEN』はムトウユージ監督がコンテ演出を手がけるようになり、作画こそ良いものの、物語の毒や映像の異様さは薄れてしまっている。

花咲くいろは』最終話 花咲くいつか(岡田麿里脚本、安藤真裕コンテ演出、安斎剛文/許螬演出、川面恒介/小島明日香/天崎まなむ作画監督

オーソドックスに盛り上げた第二十五話の後で見てこそ意味がある。祝祭の後に続く日常、小さな共同体の解体を描きながら、再生の予感をはらんだ結末が胸に落ちた。
『花咲くいろは』雑多な感想 - 法華狼の日記

Dororonえん魔くん メ〜ラめら』最終炎 股合う日まで(米たにヨシトモ脚本コンテ演出、木村貴宏/近藤源一郎/田頭真理恵作画監督

カオスなアニメの最終回らしい混沌とした内容。
米たにヨシトモ監督のことだから、コメディ作品でも最終回はしんみりしつつアクションに力を入れるかと思えば、シリーズでも最低のクライマックスに突入して涙も出てこなかった。しかしその混沌ぶりは過去の子供向け番組が時に見せていたイメージ演出の模倣でもあり、高度成長期のパロディで構成された作品の全てが詰まっていたと思う。
こんなバカバカしい話なのに、シリーズを通して作画が安定していたところも独特。

ましろ色シンフォニー』第12話 はじまり色の季節(大久保智康脚本、さとう陽コンテ演出、北条直明/平野絵美作画監督

詳細な感想は作品総合感想のエントリですます。とにかく主人公周りの小さなドラマをしっかり描いた後に、それと密接に関連させながら大枠の出来事も閉じた誠実さに感心した。世界ではなく社会と接続しようと子供達があがく物語には、良き児童文学の味わいがある。
『ましろ色シンフォニー』雑多な感想 - 法華狼の日記


なお、思うところがあってこのエントリは続きを書く予定。