法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『BS世界のドキュメンタリー よみがえる第二次世界大戦〜カラー化された白黒フィルム』

NHKがフランスのテレビ局と共同制作した、2009年のドキュメンタリー。各50分間の三部作で第二次世界大戦の勃発から戦艦ミズーリ上の降伏までをまとめあげた。


サブタイトルにあるように、残されたモノクロフィルムをデジタル技術で着色したもの。真珠湾攻撃硫黄島攻略など、かなり見覚えのある映像もカラー化されると新鮮味がある。当時の色をうかがわせる資料を集め、手作業で色分けしていくメイキング風景が断片的に紹介された。
ただし正確さを目指したためか、画面の半分近くはモノクロのまま。フルカラー化というよりパートカラー化という印象が近い。第二次世界大戦を色付きで知るという企画としては、当時のカラー映像を大量に収拾したNHKの別企画にもちろん負けている。
カラー化は、臨場感を高めるためではなく、どちらかといえば当時の風景へ解釈を加えることで状況をわかりやすくする意味あいが強かった。着色の人工性を強く感じさせるパートカラーぶりが、逆に制作者の意図で映像加工したことを明瞭にして、ドキュメンタリー作品としての誠実さに繋がっている。


面白いのが第二次世界大戦の初頭描写。大まかに戦争の推移を描いていくドキュメンタリーでは珍しく、フランスをドイツ軍が攻略していった過程がていねいに説明される。
たいていはマジノ線という近代的な要塞で作った防衛線を過信してベルギー越えを予想していなかったと簡単に説明するところ、ベルギー越えの可能性は予期して英仏連合軍を配備していたことを明示。天然の要害であったアルデンヌの森を越えることを予想できていなかったとまとめ、それを可能にした戦車の発展を印象づける作りにしていた。
そして連合軍の不和へ言及した後、イギリス軍を撤退させるダイナモ作戦でフランス軍が奮闘したことを描いていく。フランスの敗北後は、フランス北部をドイツが占領しつつ、占領をたやすくするため南部は傀儡のピジー政権に任せたことも強調されていた。


第二部では日本も参戦。基本的には見てきたような映像がカラー化されて並ぶだけだが、面白いのが天皇のあつかい。単に「天皇」と呼んで「陛下」とつけないところまでは他でも見られるが、天皇を国民が崇拝する映像を端々に入れて、実質的に宗教国家であったことを明瞭に描き出す。
これを見ていると、戦前の日本における天皇崇拝振りが示された映像を集めて編集するだけでも、面白いドキュメンタリーになりそうだと思った。戦前の日本は宗教国家であった、と明瞭にうかがえるキッチュな作品となるだろう。


第三部の日本軍敗退の光景は見なれたものだが、スターリングラードの攻防など欧州戦線もしっかり描かれているところが目新しい。
何より、日本の敗北が8月14日のポツダム宣言受諾と、9月2日の戦艦ミズーリでの降伏文書調印として示され、8月15日の玉音放送が全く描かれず言及もされなかったことが印象深い。敗北を知らされた側の終戦と、敵国の上層部に勝利した側の終戦という差異が強く感じられた。


最後に、音楽担当が川井憲次だったことも特徴的。いつもの川井節なので、どうしても押井守監督作品を連想してしまう。
映像のカラー化だけでなく、背景音楽によっても映像の印象が左右される。そのことを結果的に強く感じさせるドキュメンタリーとなっていた。